師匠は、もう師匠じゃなかった。

一応俺達の名前は知っているみたいだったけどそれは“夢で見たから”だって。

アイツはもう俺達が知ってる師匠じゃないんだ。






旦那なんて泣きそうだったし、かすがなんて悔しさからかずっと拳を握り締めてる。









ああこんな気持ちなんだ。大切な人に忘れられるなんて。










じゃあ今まで師匠もそうだった?
俺達に忘れられてて悲しかった?










答えは わからない。

師匠がいつから別人になってしまったのか判らないから。



























「…なあ、そこにいる人」

独り言のように呟く声。

でもそれは明らかに俺様に向いている。







「なんで…ここにいるってわかったの?」







天井裏にいたのに、気配も完全に消してたはず。






「本当にいたのか…。なんとなく視線感じた気がしたから言ったんだけど。出てきちゃ駄目じゃね?普通」
「……」





師匠と同じ事を言う。
しょうがないじゃないか、アンタに呼ばれたら出て行きたいんだ。









今は大将達も退出していて、部屋には俺と―――師匠だけ。

「皆、がっかりしてたな。悪かったな、求めていた奴じゃなくて」
「…それはアンタが謝る事じゃないだろ」






佐助はと少し距離を開けて座った。









確かに見た目も雰囲気も師匠と全く一緒。
けれど、師匠はこんなに儚い空気を持っている人だったか?








まるで今にも消えてしまいそうではないか。






「…オレな、なんにも持ってないんだ」


「…?どういうこと?」



「きっとお前や、あの赤い奴とかのことも知ってるんだ。でも思い出せないんじゃなくて、知らない。夢では見たけど、見ただけ」












苦しかった。



自分の存在をこの人の中で消されていた事が。














「意識が無くなる前、誰かが言ったんだ」



オレの心はバラバラになってしまった

元に戻さないとオレという存在は消えてなくなる、と










「…それどういう意味―――?」


「わからん。でもバラバラになった心の所為でオレが忘れてるって言うなら……ごめん」


「………」










アンタが辛そうな顔しないでよ、とか
そんなのアンタの所為じゃないんだからさ、とか










励ませばよかったのに

そんな言葉じゃあ何の意味も持たないと思った。


















佐助の心境