「かれがここへかえってきたときのことでした。あれだけつよかったかれのこころがよわくなっていたのです」
今にも消えてしまいそうな彼の心。
燃え続けていた炎がまるで蝋燭の明かり程度のちっぽけな火。
「ワシらは何があったのか、問い詰めた。けれど奴は何も言わなんだ」
『どうしたのです!?いったいなにが』
『しっかりしろ!』
『二人にだけ…ばれちゃうな。ごめん…オレしばらく眠る…。精霊達の力借りて…休むよ。だから…しばらく他の皆…オレのこと忘れちゃうけど…』
一筋の涙が、の頬を伝った。
『帰ってきたらまた…迎えてくれるかなあ…』
『当然じゃ!だから安心しろ!!』
『かならずもどってくるのですよ!!』
「そうして、かれはわたくしたちのまえから。あなたがたのきおくからきえたのです。ただいまだにきえたりゆうはわかりません」
「そんな…事が…!?…師匠…どうして…?」
「…んっ…」
「「「!!!」」」
寝ていたが身じろいだ。
その小さな声も逃さず三人が反応する。
「佐助!幸村達を呼んで来い」
「了解!」
「……ここは…」
「きがつきましたか?」
「何処か不具合は無いか?」
は寝惚けた目をちゃんと覚醒させ、自分を見ている二人の方へ顔をやる。
「あんた等…誰?ここ…何処?」
二人は頭を何かで殴れられたようなショックを受けた。
「良かったでござる!!兄上が目覚められて本当に良かったでござる!!」
幸村は涙を流しながらに飛びついた。
それを見てかすがが怒鳴る。
「こら!!先生はまだ体が本調子じゃないのだぞ!!」
しかし、の表情はぼかんと呆気に取られたような顔だった。
「どうしたの?まだ気分悪い?」
佐助が心配そうに覗き込むと、ようやくは我に返ったようだ。
「…なあ、兄上とか先生ってオレの事?」
「…え?」
「…いま、なんて…」
「ちょ…その冗談笑えないって…」
認めたくない言葉が聞こえた気がした。
そして次の謙信の言葉に三人が一気に表情を失くした。
「…どうやらかれにもきおくがないようなのです」
「そんな!!兄上!!某が忘れていたから怒っていらっしゃるのか!?」
幸村がの肩を強く揺する。
「ちょっ…やめろよ!…アンタ…が…もしかして…弁丸って奴…?」
「「「!!!??」」」
が呼んだのは幸村の幼名。
幸村は思い出してくれたのかと顔を綻ばせた、しかしそれも一瞬だけだった。
「いつも夢に出てくるけどまさか実在してたなんてなー」
チガウ
コノヒトハ
ジブンタチガシッテイル“”デハナイ――…
その場の全員に絶望が走ったような感覚だった。