あの後、一同は謙信の城へと戻った。
ここでは武田軍である信玄、幸村、佐助は客人として扱われていた。
誰もが、この青年の前で血を流す事を望んではいなかった。
「どうして…某は…忘れていたのだろうな」
「旦那…。それを言うなら俺様もだよ。今の今まで全く覚えてなかったのに…師匠の顔見たら…」
「でも…何故、先生は外見が変わってらっしゃらないんだ?!先生が居なくなって…もう十年は経つのに…」
布団に静かに横たわる青年―――の横には、彼の安らかな寝顔を見守る三人がいた。
「さんにんとも、すこしやすみなさい。いくさでみなつかれているでしょう」
「うむ。ワシらが着いておるから大丈夫じゃ」
「お、お館様こそ先に休まれて下され!!この真田幸村、まだまだ平気で――「わかきとらよ」
謙信は静かな声で幸村を諭す。
「わたくしたちはこのもののそばにいればじゅうぶんやすめます。このものがめざめたらそなたらをよびますゆえ」
「しかし、謙信様!私も…私も…ここに…」
「かれがめざめたとき、おおぜいにかこまれてはおどろくでしょう?やみあがりにはすこしきのどくです」
「……わかりました」
そう言われては立つ瀬が無い。
幸村、かすがは大人しく退出した。
残るは、佐助。
「どうした、佐助よ」
「…大将達、何か知ってるんじゃないですか?どうして師匠がいきなり消えたのか、何で今まで俺達が忘れていたのか」
佐助にしては珍しく、焦りの色が隠せない。
怖いのだ。
消えた理由がわからない
忘れた理由がわからない
ならば
また忘れるかもしれない 消えるかもしれない
「…わたくしたちは、そのばにいあわせたからでしょう」
「謙信…」
「いいのです。このものにもしるけんりはあります」
は、腕の立つ忍だった。
何処にも所属せず、ただ放浪とするだけ。
幼い頃親を亡くし、一人で生きていく為に忍術を覚えた。
この乱世で生きていく為に力をつけた。
そんなには不思議な能力があった。
彼は心がとても強かった。
どんな逆境でも折れない心を持っていた。
その心が形となり、あるものが生まれた。
“精霊”
それは彼の心の形でもあり、彼の意思そのものだった。
何者にも負けぬ強き想い。
それは最強の武器であり、防具でもあった。
彼は日の国を旅して廻った。
ある時は甲斐の虎のところへ、ある時は京へ。
まだあまり国争いが激しくなかった頃、彼は日の国を旅し続けた。
彼の人柄に惹かれた者は多い。
誰にでも分け隔てなく接する、光のような存在。
それがある日突然消えてしまったのだ。