『我が主は一度そなた達の前から消えた。だが今一度戻ってきたが記憶が無かった。ここまではよいな?』
「消えた…?が?なんだそれ」
『そこのデカイのには誰か後で説明してやれ。話が先に進まん』
どうしてこの白い鴉は異常に好戦的なんでしょうねえ…。
まあ私も早く真相が知りたいですから、口は出さないでおきましょう。
『消えた、というには語弊があるのだ。はっきり言えばお主等は忘却の術をかけられておったのだ』
「「「「「「!!!!!!」」」」」」
『主は普通に存在しておった。記憶も何もかも無くしてな』
「Wait!!だが俺達はなんで同時期に思い出した?!かけたのは誰だ?!」
鷹は口篭る。
答えが待ちきれない独眼竜は苛々とした様子を隠す様子も無く机をバンバンと叩いている。
『……術と言えど何人もの人間に容易くかけられるようなものではない。
術者が未熟なら当然、効力も同時に切れよう』
すると黙っていた黒い鴉が話し出した。
白い鴉よりは比較的大人しい口調で話すがその声は淡々としていた。
『かけたのは―――主自身』
「「「「「!!!!??」」」」」
『禁断の秘術とも呼ばれる忘却の術。それをこんなに大勢の人間、それから自分自身にかけた所為で主には咎がくだった』
禁断の術の代償は、己の命。
もし、再びこの術が解かれれば反動で術者の命が喰われる。
皆の記憶がに戻っていく度、の体は術の反動を受けているということなのだ。
「…っなんだよそれ…!!!あの馬鹿…!!!」
「何の為にそんな危険を…兄上…!!!!」
怒りのあまりに床を殴る四国の鬼に、崩れ落ちる甲斐の若虎。
独眼竜なんかはあまりのことに放心状態、慶次は最初の方は理解出来ていなかったが最後だけ解ったようで蒼褪めている。
毛利は…おや、意外と冷静ですね。
「続きを話せ。それではまだ終わらぬのだろう?」
「元就…っ!テメエなんでそんな落ち着いてやがんだよ!!!」
掴みかかる鬼を払いのけ毛利は拳を握る。
「阿呆か貴様らは!!!我達が此処で落ち込んでいれば何かが解決するのか?!理解できるのか?!」
恐らく、不安であろう自分自身をもああやって叱咤してたんでしょうね。
握られた拳からは血が落ちていますし、唇も噛み締めすぎて切れています。
毛利の言葉に目が覚めた四人は鷹の次の言葉を待った。
ようやく話を聞く気になったかと再び鷹はゆっくりと語り始めた。
『主は―――己が生まれた事を後悔しておった。“自分が生まれなければ母は追い出されなかったかもしれない”と』
その言葉に独眼竜が苦い顔をする。
『母親に先立たれた時の主は…見ていられなかった。脆く、すぐにでも壊れてしまいそうだった。
だが、そんな主にも光が現れた。それはそなた達だ』
若虎が間の抜けた表情を浮かべる。
『自分を慕ってくれる、必要としてくれる。
ああ、もしかしたら日の国全て回ればそんな奴はもっといるかもしれないと。
主はそれを支えに強くなられた。生きる為に』
鬼が目に涙を浮かぶのを必死で堪えている。
『けど、そんな主の心は壊されたんだ!』
白い鴉のいきなりの一言。
全員の血の気が下がる音が聞こえるくらい、部屋は不気味なほどに静まった。
『忍が任務で殺しをするのはよくあること。だが主の才が破滅へと導くことになった』
生きる為に忍の修行をするは次々と才能を開花させていった。
だが、忍が生きるは影の道。
血を浴びずして、実力が認められることはないのだ。
暗殺、奇襲。それらの任務は避けて通れぬもの。
はその度に幾度と心を殺してきた。
時には自分の弟と同い年の子供を殺した、時には子を持つ母親を殺した。
何か悪い事をしたのか?!殺されなければならないようなことをこの人達がしたのか?と自分を責めていた。
だが忍に感情は不要、しかも自分を責め続けていればいつか精神が壊れる。
故に心を壊した。何も感じなくなるように。
『それが…今現在の主の姿じゃ。殺人人形と化した悲しいお人…』
「それで…?何故蒼き忍は我々の記憶を消したんです?あまつさえ自分まで」
『自分の記憶を消したのは殺人人形に戻らない為、貴方方の記憶を消したのは自分と二度と関わらない為』
『主は…………誰より何より、お前達を殺すことが怖かった。可愛がっていた弟妹分達を』
『唯一正気に戻った瞬間、主は我等に己の想い全て打ち明けてくださった。そして迷うことなく秘術を使ったのだ』
全て話し終えると鷹は再び部屋の中へと戻ってきた。
『我等は主の最後の記憶の欠片。だが次に得るのは我等ではない。長曾我部、毛利、前田そなたらなのだ』
『そして、豊臣軍にいるあの男――…竹中半兵衛と伝説の忍、風魔小太郎』
『この三つを取り戻せば主の術は解ける。だがそれは……』
“の死”を意味する。
「そ…そんなの駄目だって!!!が死んじまうなんて…!なあ!!」
「で…でもよ、取り戻さなかったらはこのまんまなんだろ?!それよか、を元に戻すのが先じゃねえのか?!」
「Shut up!!元に戻すったって…方法がわかりゃしねえんじゃ何も出来ねえよ!」
「だけどこのままにはしておけないでござる!!」
慶次と独眼竜と鬼と若虎が言い争う。
毛利は必死な顔でああでもないこうでもないと考え続ける。
私は…どうしたいのだろう。
記憶を取り戻せば死ぬ、戻さなかったら殺人人形のまま生きる、どちらにせよあの暖かい笑顔の人は戻らない。
ああ、なんてあの人は愚かなんだろう。
この乱世で殺さなければ殺されるのが道理な世の中で、人間を殺す事に罪悪感を感じなくてもいいのに。
そうすれば、こうはならなかったのに。
「…ところで、今あの人は一体何処へ向かってるんですか?」
『……豊臣、織田…もしくは松永久秀のところであろうな』
「…松永………?」
それは最近よく耳にするようになった一派の頭の名前ではなかったか?
松永と言う男、とても悪名高き残虐非道をつくした者と聞いていますが…何故そのような男と蒼き忍が…?
『主の本能が理解しているのは“一番の脅威となる存在を消す”ことだけだからだ』
『だけど佐助が追っていることには気付いている。故に佐助を引き離すまでは絶対にかようなことはしない』
『主は佐助とかすがにだけは自分が殺しをする姿を見せないようにしていたからな』
その言葉は希望を生んだ。