「…たった二人で来るとは、一体どういう用件だ?」
部下の慌てようから敵襲だと思っていたのに、よく聞けば普通に門から訪ねてきた明智と前田。
走ってきたのか、息を切らしている。
これで今から戦をしようと言う輩はいないだろうなと思い、俺も武器を持たず二人を出迎えた。
勿論部下達は止めたが、俺にはその声は聞こえなかった。
あまりにも二人の表情が必死だったから。
「…ッゼェ…すまねえ……。こっちに…猿飛…が来なかったか?」
「猿飛?いや、奴なら出かけたきり戻ってねえが…会ったのか?」
俺の返事を聞いて前田はがっくりと肩を落とした。
明智は、こいつにしては珍しい表情をしている。いわば、“蒼褪めた顔”。
コイツが焦るのか、と内心驚いていたが本人達は至極真剣のようなので黙っておいた。
「…猿飛が…人を追い駆けて行った。相手も…同じ忍だから追いつけなくて…」
“猿飛”が追い駆けて行った“忍”。
今この状況で、それが誰だか解らないほど馬鹿じゃない。
俺はその言葉を聞くなり前田の胸倉を掴んでいた。
「何があった!!?言え!!!!」
「……なんだ…それ…」
「あ…兄上…が…?」
「う、嘘でござる…。そんなの…信じられないでござる…」
「…戯言など…聞きたくない」
俺達全員が理解出来難い内容だった。
が、佐助に刃を向けて、冷酷な瞳で辛辣な言葉を吐いていただなんて。
何処へ行ったか判らないを追い駆けて行った佐助。
彼は無事だろうか、そしてはどうなってしまったのだろうか。
「…ってめえ…明智ぃぃ!!!!」
政宗が明智の胸倉を掴んで怒鳴った。
動じていないのか明智は反応を返さない。
「てめえが…てめえが来なければ…こんなことには…!!!!」
そうだ、元はと言えば明智と遭遇してしまい記憶を取り戻したのが原因だ。
政宗の怒りは最もと言える。
だが、そんな政宗を諌めたのが何故か幸村だった。
幸村もを“兄上”と呼んで慕っているのに、何故か冷静だ。
「止めてくだされ!!政宗殿!!どちらにせよ、明智殿は来て正解だったのでござろう?!」
「…?…どういう…ことです?」
黙っていた明智が口を開いた。
俺達も幸村の方を見る、そういえばさっき何かを言いかけていた。
「先程は言えなかったでござるが……兄上は……兄上は…
記憶全てを取り戻さなかったら、消えてしまうのだ」
・・・・・・・
部屋に一切の物音がしない、静寂が訪れた。
誰かが唾を飲む音が聞こえる。
嫌な汗が頬をつたった。
心臓が速まる。
「はは…は…何の冗談だ?我はそのようなことでは笑えぬな」
一番最初に言葉を取り戻したのは元就だ。
枯れた喉から無理矢理出した声は掠れている。
「…認めたくねえのは俺も同じだ。これがjokeならどんなに良いと思ったか」
一番信用していなさそうな政宗が、幸村の言葉を否定しない。
……なんてこった……。
…本当に神さんは俺等を嫌っている。
政宗は明智から手を離し、壁に寄りかかってだるそうに座り込む。
元就は何処か遠くを見つめている。
前田は俯いたまま、何も話さない。
幸村は膝を抱えてしまった。
明智は…髪で顔が隠れて見えないが動こうとする様子が無い。
皆、腑抜けちまった。
重い空気を少しでも入れ替えようかと障子へ向かうと何やら騒がしい声が聞こえる。
鴉が騒いでいる、数は…二羽…いや三羽だな。
また庭にでも入り込んだか、と思い開けてみると勢い良く影が飛び込んできた。
「どわああ!!!!」
「な、なんだ!?」
「…これは佐助の鴉!?」
「あ、こっちはくの一のねえちゃんが連れてた白い鴉!!」
「この鷹はなんだ…?」
飛び込んできた三つの影は黒・白のデカイ鴉とそれよりデカイ鷹。
もしや猿飛が何か寄越したのか?と思い鴉をマジマジと見つめてみるが、手紙などを持っている様子は無い。
「なんなんだ…今取り込んでんだ。後に……」
『我が主を助けてやってくれまいか』
俺達以外の声が聞こえた。
一応辺りを見回してみるが、俺達以外に人はいない。
『どこを見ている。こちらだ』
もう一度聞こえた声に全員が同じ方向を見た。
すると一点で視線がぶつかる。
二羽の白黒の鴉に挟まれ、優雅に佇む一羽の鷹に。
『我が主は今、苦しんでおられる』
今度は一体何が起こってんだよ。
『落ち着かれたか?』
「お、おう…」
鷹が喋っているという事実を受け入れるのに少々時間を要してしまった。
一部(慶次・幸村)が大騒ぎをしていた為、今は粛清と言う名の拳骨(by政宗&元就)を食らって大人しく(気絶)している。
鷹は鋭い眼で俺達を見回すと、人間で言う溜息をつくような仕草をした。
『我が主が認めた武将達がこんなでは主の心労も溜まる一方だな』
「んだと!?もう一回言ってみやがれ!!」
鷹の一言に切れた政宗が掴みかかろうとした。
だがそこへ飛び込んできたのは白い鴉だった。
『何度でも言ってくれる。何も知らぬお主達が主の周りにいる、それが不愉快だ』
完璧に俺達を嫌っている、と言う眼で睨んでくる。
黒いのは今の所出しゃばる気は無い、と一歩引いたところで見ているが白いのは好戦的だ。
政宗と睨み合いを続けている。
『よせ。今はそのようなことをしている時ではない。事態は一刻を争う』
ようやく鷹が二人(一人と一羽)を止めた。
巨大な翼を広げ、庭の木に飛び移ると高い位置から俺達を見下ろした。
『我が主、様は今正に生と死の狭間にいるも同然』
「!!!」
『全てを貴殿らに全てを話す。須らく聞け』
鋭い眼光が俺達を貫いた。