「…なんだったんです?今の閃光は……」



ようやく目が慣れ、戻ってきた光秀の視界には居なかった。
慌てて、辺りを見回すが慶次も佐助もまだ視界を失った状態で右往左往している。








「…また、消えると言うのですか……!!
許 さ な い !!!!










喉が切れるんじゃないか、と言う位に叫ぶ光秀を今まで見たことある人がいるだろうか。
慶次達は目の前で叫ばれたにも関わらず、一瞬その悲痛な叫びが誰の声か解らなかった。









人の領域に侵入しておいて、余計なものを教えていって………放置していくなんて………っああぁアアあ!!!」





まるで寂しい子供が我儘を言うようだ。
癇癪を起こしたように鎌を振り回す。









「…そろそろやばいかもね。気絶させてでも止めないと、こっちがやられるわ」
「賛成、その後を捜すか」








佐助と慶次も各々の得物を構え、光秀に向かう。


















「どけ」















だが、その二人の間をすり抜けるように影が舞った。

目にも見えぬ速さで光秀の鎌を弾き、動きを封じた。







「……」

!!」








慶次が名前を呼んでも、反応しない
先程までとはまるで人が変わったようだ。






意識を無くしているわけでも、操られているわけでもない。
正常な瞳、だが冷たい。











佐助はその表情を一度だけ見たことがあった。
















「…っあの目……。師匠が…あの日……」











“全ての人間を殺し、機密事項を持ち帰れ”












忍び込む先は名のある武家。
それなりに実力のある武将もいたし、警備も半端ではなかった。

だがはそれを一人でやってのけた。


恐ろしい程の返り血を浴び、証拠の首を持って、何も映さない瞳で戻ってきた。



佐助とかすがは暫くと会うことを禁じられた。
あの時、他の忍達が言っていた事を佐助は忘れない。






『本当に変わり者だ。普段には全く見せないあの顔。あれが奴の本性なんだろうな』

『まるで殺人人形だ。何とも思わない顔で残酷なことをやってのける。忍の鑑だね』




それは決して褒め言葉なんかじゃない。

を人間じゃないと暗に言っているのだ。


それを聞いた佐助は一度だけこっそりとに会いに行った。
まるで隔離されたような場所、鍵の付いた扉。


外から声を掛けてみたが、いつもの明るい声は聞こえなかった。



代わりに聞こえたのは中で暴れる音と、鎖の冷たい金属音。










ア ア 、 心 ヲ 壊 シ テ シ マ ッ タ ン ダ ネ


デ ナ ケ レ バ 、  生 キ テ ユ ク ノ ガ 辛 イ カ ラ
 

 







佐助は扉の前から離れなかった。

見張りの者が離そうとしても、意地でも動かなかった。



また、あの笑顔で出てきてくれる日を彼の近くで待ちたいから。























「…そうか、記憶を取り戻すことで…あの時の記憶まで…」




恐らく、光秀の記憶の欠片の時期がが壊れた時期と重なっていたのだろう。
光秀の元へ現れなくなったのは、心が壊れてしまったから。








「オレを殺す、と言っていたな。“蒼き陽炎”を、お前風情が殺せると思っているのか?」
「……ようやく、昔の目つきに戻りましたね。ああ…やはりその狂気こそが貴方の本性だ」









押さえつけられながらも光秀は強気な口調だ。
眉一つ揺るがないが、少しでも機嫌を損ねれば一撃で殺してしまいそうな程の目では佇んでいる。


止めようと、近づきたくても刺さるような殺気がこちらにまで伝わる。
戦場に出て、幾度と無く人を斬ってきた兵でもこの殺気では自由に動けないだろう。







…てよ……。やめて………やめろよっ師匠!!!!!



佐助は武器も持たず、に近寄った。
その時は必死だったお陰で、躊躇することなくの体を抑える事に成功した。








「こんなの…アンタじゃない…!!いつもの師匠に戻ってくれよ!!」














「……そうか」









叫びが通じたのか、は光秀を狙っていた武器を下ろした。











「ししょ……」

























「お 前 も 敵 だ っ た の か」











「し」






武田の忍頭を務める佐助にも見えぬ速度での苦無が佐助の額を狙ってきた。

間一髪、慶次に襟首を引っ張られた事で掠める程度で済んだが佐助は放心状態だった。






「おい、猿飛!!…畜生…なんなんだよ…。
記憶が戻るって…こうなることなのかよ!!!




慶次の悲痛な叫びにも顔色一つ変えない
既に光秀に対する興味は無くなっているようで、辺りをキョロキョロと見回し素早い動きで消えていった。








「…何処へ……」

「…追わなきゃ…」
「猿飛!」




フラフラと佐助も後へ続く。



残された二人は取り合えず、四国の大元である長曾我部を訪ねる事にした。
































「兄上ぇぇぇぇ!!!何処に行ったでござるかぁぁぁぁ!!」

「刀が無え!!アイツやっぱり外に出て行きやがった!」

「てめえらちゃんと見張ってろって言っただろうがぁ!!!毛利ぃぃ!ちゃんと部下に言っとけ!」

元親の城で大騒ぎしている幸村達。







「まったく役立たず共が……。そういえば猿飛の姿が見えぬな」

「「「あ」」」

佐助がいないことに気がつき、恐らくはを捜しにいったのであろうと目星をつける。
そこでようやく四人は一旦落ち着こうと腰を下ろした。







「やっぱじっとしてるわきゃねえとは思ってたんだが…。何事も無けりゃいいな」

「もう…昔の様に消えられるのはゴメンだぜ…」

「……兄上……。…?そういえば、兄上は元親殿と元就殿の記憶は取り戻したのでござるか?






「「………」」







途端口篭る二人。
地雷を踏んだな、と政宗は冷たい目で幸村を見る。
幸村は全然解っていないようで返答を待っている。























「…まあ、記憶が無くても良いかなって思ってんだ」




元親の答えは意外なものだった。
少なくとも、政宗や幸村は思い出してもらうまでとても辛かった覚えがある。
元就も元親と同じ考えのようで、ゆっくりと頷いた。




「そうだな…。あ奴はあ奴。昔を覚えていなくとも、中身はそのままだ。過去など無くても、現在があるのならそれで良いと思う」





幾つかの記憶を取り戻したお陰で、ようやくこの時代の人間に戻れた
確かに覚えていない事は幾つかあるが、今のの性格があれば再び築いてゆけるのではと元親達は思っているのだ。




















だが、その考えを打ち砕く言葉が政宗によって告げられた。



「Do not say a stupid thing!!!
(馬鹿なことを言うな)

………事態はそんな悠長に構えてらんねえんだよ」




「…どういうことだ?」




叫んだ本人は事実を認めたくない気持ちから、それ以上は自分の口で言いたくなかった。
それを汲んで、幸村がゆっくりと喋りだす。






「……記憶…すべてを…取り戻さなければ…兄上は……」



























「元親アニキーーーーーーーーーー!!!!!」











幸村の言葉を掻き消すかのように飛び込んだ叫び声。
慌てて駆け込んできた部下を元親は注意しようと思ったが、あまりにも必死な様子だったので言えなかった。





「た、大変です!!……あ、あああ……明智と前田が来ました!!!」

「「「「!!!!??」」」」