・・・・記憶が無い・・・だって?



じゃあ、は俺のことを覚えてないって言うのかよ?!
道理で会った時、前と違って余所余所しかったのか?




明智も
珍しく間抜けな顔してるんだけど!!!
逆に怖い!!!








「…何黙りこくってんだよ、お前ら…」


の声に意識を呼び戻した明智は瞬きを何度か繰り返すと手に持っていた鎌を落とした。
・・・戦意喪失しちまったか?








「…本当に貴方は…私を覚えていないのですか…?」
「…ああ。最初は何故オレが此処にいるのかもわからなかった」






全て、忘れていたとは言う。
自分の生い立ちも、関わりのある人間も、「自分」という存在も。



「じゃあこの間なんで伊達や幸村といたんだい…?」


「目覚めて最初に武田と上杉に会った。それから政…伊達と会って一つずつ記憶を取り戻した」
「ひとつ…ずつ…」





明智は俯きながら地に膝をつくように座り込んでしまう。
そんなに忘れられてたことが…
「フフフ…」そう笑う程…ええ?




「…
フフ…フフフフフ…ハハハハハハハ!!昔のことだから覚えていないとは思っていましたが…まさか記憶そのもの失っているとは…。
 滑稽ですよ。ええ、これを笑わずして何を笑えと言うんです?」




狂った…。

高笑いをしだした明智に正直言っても引いてるぞ。



「慶次…コイツ、素でこれか?今だけおかしいのか?」
「…素も変わらないと思う」


戦の時とか、特にな。





「それでは面白味がありませんねえ…。是非とも思い出して頂かなければ」



落とした鎌を拾い上げ、立ち上がる明智に俺達も再び警戒する。
今の内に逃げとけば良かったか…?



「死に際に立てば思い出しますか……?」

「…っ!ああ…そうかもな!!」




なんとは自ら明智へと飛び込んだ。
までどうしちゃったんだよ!!



止めねえと!!!



だが、俺の動きを止めた奴がいた。






「待ってくれる?前田の風来坊」

























「ハハハハハハなんですかその動きは。貴方の力の半分も出ていないじゃないですか」
「そんな減らず口叩けるのも今だけだぜ?」



確かに動きは昔とあまり変わらない。



だが、私の求めるものが無いのだ。




「…そんな、
《殺気の無い刀》で私を止める気ですか?」
「…ああ、そうだよ!」




昔の貴方は私を心の底から震え上がらせる程、凄まじい修羅を身の内に潜ませていたと言うのに。


何が、貴方を変えてしまったんですか?
この十数年間で何があったんですか?





・・・面白くない!!




「もう飽きてしまいましたよ。終わりにしましょう…。さようなら、蒼き陽炎」



もう戻ってこないなら、





私の手で消してあげましょう。


























「離せ!!…どういうつもりだ!!を見殺しにする気か………













猿飛!!!!







俺の動きを止めたのは武田の忍である猿飛 佐助。
いつからいたのか全く気がつかなかったが、何故俺の邪魔をするんだ!?





「ちょっと黙っててよ。師匠が殺されるわけないだろ。俺の師匠なんだから」
「師匠…?が…お前の?っだけど、今のは…!!」
「確かに記憶は無くしてる。だけどこういう状況下で、前に師匠は記憶を取り戻したんだ」




目は俺を見てない。
ずっとと明智の戦いを見ている。



そして俺を押さえつけていない手は固く握り締められ、血が出ている。
俺よりもまず自分が飛び出したいのに、我慢してる手。




「師匠に危険が迫るなら俺様が行く。だけど、今はその時じゃないだけだよ」





信じてるんだ、を。

























「おやおや…抵抗はするくせに、今だに決定打を打たないのですね…」

攻撃を避けたり、受け止めたりするのに全く急所を狙ってこない。
何処まで腑抜けてしまったのですか…?



「お前にとって…オレはそういう人間だったのか?」
「ええ、常に私を昂ぶらせてくれる。貴方の全てが私を奮え立たせていました」


「言い換えるぞ。戦場ではない所に居たオレは、どういう人間だった?」







戦場ではない所……?


そんなの覚えて…













『桃丸。見てみろよ、夕顔が咲いてるぞ。お前の好きな赤色だな』








脳裏に浮かぶは、幼い頃に好きだった顔。







…さい。……うるさいウルサイ五月蝿い!!!


「!」


忘れたくせに…!!置いていったくせに…!!……逃げたくせに!!!!












思い出すのは柔らかい笑みを浮かべた人。

その暖かい手に頭を撫でられた日々。

一緒に夕焼けを見た回数。





そして、突然来なくなった日。







暗い部屋で貴方を待った。

それでも貴方は来なかった。

次第に薄れてゆく記憶。






















ガッ!!!



「!!」



急に明智の動きが速くなり、の体を地に押し倒す。
そしての顔ほんの僅か寸先に鎌が突き刺さった。
刺さらないと判っていたのかは慌てて避けようとはしなかった。






「…なんなんですか…貴方は……」



ポツリと呟かれた言葉。





「急に現れて…かき乱すだけ乱しておいて…。勝手に消えて…」




震える手。



「本当に……殺してやりたい…のに」




肩で息をする明智。




「…どうして…っ…
出来ない!!!?






顔を上げた明智の表情は初めて見た、悲しみに暮れた顔。







「……あけ」


が名を呼びかけた時、明智の懐から何か小さな袋が落ちた。

その中から蒼い石のようなものが落ち、の上に乗った。









その瞬間、閃光が俺達の視界を奪った。






「…っうわああああああ!!



「…これは…!!!」



視界が無くなる前に聞こえた猿飛の声はどこか期待めいたものだった。