時は乱世―――…。
ここでは皆、己の名誉、主君、誇りを賭けて戦っていた。






そして、この男もまたそうだった。






武田軍総大将――…武田信玄。








信玄は長年の宿敵、上杉謙信との決着の為川中島にいた。
真田幸村を始めとする多くの家臣達を引き連れ、長きに渡る戦いに終止符を討とうとした。



「長かったな…謙信よ」
「ええ。でもようやくけっちゃくがつきますね、しんげん」


一対一の決着をつけたいと言った二人の為、ここには信玄と謙信以外の人間はいなかった。


―――…いや、いないはずだった。









「行くぞ!!」
「のぞむところです!!」







お互いの力がぶつかる―――――………!!!







しかしその時二人の間に一筋の光が差し込んだ。










「「!!!」」










二人は驚き、動きを止めた。
光が晴れ…自分とお互いに何も異常は無いかを確認すると光が落ちた場所を見た。


「…これは…っ!!」
「なんと…こんな事が…これは夢なのか?!」
「いえ…これはうつつのようです。まちがいなくわたしたちのめのまえにいま…」








「かえってきてくれたのですか…?……」「戻ってきたのか………?……」



















武田軍は軍を引いた。上杉もそれをあっさり受け入れた。
家臣たちの疑問は深まるばかり。






あれほど、待ちわびていた戦いだと言うのに。






総大将同士が顔を合わせて、何もしないで帰るなんて。



真っ先に信玄と謙信の元に駆け寄ったのは、真田幸村、猿飛佐助、かすがの三名だった。







「お館様!!!一体何があったでござるか!?上杉公との決着は…!!」
「幸村!今はそれどころではない!これはワシと謙信双方の同意あってのこと。今はこやつの看病じゃ」








「謙信様…、一体何があったのですか?」
「つるぎよ…。いまはこのものをやすませてならねばなりません。わたくしたちのけっちゃくなどこのもののまえではちいさきこと…」







そう言って謙信は信玄に抱えられている男を見た。
信玄も自分の腕の中にいる男に優しげな視線を送る。





「大将…一体コイツは…?」
「ワシと…謙信にとってかけがえの無い者じゃ。幸村、佐助お前たちも知っているはずだ」
「それにかすが…あなたもしっています。あなたはかれにいちばんなついていました」






「某も…?」

「私が…?」

「俺様…?」








三人は一斉に男の顔を見た。



若い、幼い顔立ち。
綺麗な亜麻色の髪。







脳裏に浮かぶのは、大切な存在だった者。








「っつ……!!!頭が!!」

「な、なんだ…この割れるような痛みは……」

「くっ……何かが、押し寄せてくる…感じ…?!」









『弁丸、駄目だって。一日に団子は三皿までって言ったろ』
『でも某まだ食べたいござる!!』
『んー…じゃあオレに勝ったらいいぞ。さあ打ち込んで来い』
『そ、そんなの無理でござる!!某勝ち目が無いでござる!!』
『武士になるものがそう簡単に諦めるな!お館様を…守るんだろ?』
『!!わかったでござる!!参る!!』
『そうだ!何事も簡単に諦めるな。常にお前は心に炎を燃やせ!』
『うおおおお―――!!我が魂、熱く燃ゆる―――!!』




いつも自分を受け止めてくれたヒト

「…………兄上……?」





『佐助、気配消すの上手くなったな』
『ほんとっ?!…あ』
『でも褒められて居場所ばらしちまうようじゃあ駄目』
『仕方無いじゃん…嬉しかったんだよ』
『お前が真田忍隊の長になるのも時間の問題だな』 
『――…俺…出来るかな』
『影になるのは辛いことばかりだ。でも主人を命ある限り支えていくのは忍の誇りであり―――生き甲斐だ』
『……そう、だね。あの情けない若武者を支えてやらないと』
『おう。そんで、オレはお前を支えてやる。泣けないお前の分オレが涙を流してやる』




いつも自分の背を押してくれたヒト

「………師匠……?」





『ねえねえ、どうしてかすがには教えてくれないの?佐助には沢山教えるのに』
『うーん…折角だしさあ。忍術以外にも知って欲しいことがあるんだよ』
『何?』
『忍は任務に忠実でなければいけない、これはわかるよね?』
『うん』
『じゃあ任務でない時、そこには“くのいち”としてのかすがじゃなくて、“女の子”のかすがになるんだ』
『???』
『だからね、いつも気を張ってないで。オレの前でくらい休んで欲しい。お前、ここんとこ頑張りすぎ』
『……忍は感情を見せちゃいけないもん…』
『そうだな。だからオレの前ではただの“かすが”になれ。ここでだけ、お前は忍じゃない』




いつも自分を優しく包んでくれたヒト

「……せんせい……なの?…」 



三人は、何故今まで忘れていたのかが不思議なくらいに記憶を取り戻した。