「おいおい!!待て待て!!てめえだろ?!」







元親は窓から出て行こうとするを引き止めた。










「ああ一応だけど……」



「では人違いとはなんだ?先程我等の幼名を呼んだでないか」







「…ってことはやっぱりお前らなんだな…」






は再び二人に向き直るとマジマジと見つめた。





「…へーアレがこうなるのか…」















「何か様子がおかしいな。本当にそなたはか?」


「ああ…なんか知らない人間を初めて見るような顔だぞ」










「そりゃそうだよ。なんせオレ記憶が無いからね」







「「………はあ?!」」











は事の成り行きを大まかに話した。











「信じられねえな…と言いたいが、確かに今のお前は昔の姿のままだもんな。普通もう少し老けててもいいもんだ」


「成長まで止まるとは…一体どういう現象なのだ…?」



「わからん。だが今までで伊達、真田の欠片は戻ったからな。夢でオレが見た人間が欠片を持っていると思うんだ」













取り戻せなかったらオレという人間は 消える


とは言わなかった。











少し沈黙状態が続いたかと思うと、急に元就が立ち上がった。







「……我は外の空気を吸ってくる。長曾我部、貴様その男を見張っておれ」


「お、おい!元就!!」






元就は目をに向けることもなく部屋を出て行った。














「…ったく、何拗ねてんだアイツ…」



「ま、仕方ねえさ。自分のことを忘れた奴が呑気に目の前にいるんだ。お前も気分悪いだろ?」


「…そりゃあ忘れられたのには腹が立つけどよ…。お前の方が泣きそうじゃねえか。そんな奴責めれるかよ」









あーあ…優しすぎだろ。きっとコイツは中身は昔から変わってないんだろうな。

人の心配ばかりする心優しい少年がそのまま大人になったんだ。








「責められることくらいは覚悟してたんだけどなあ…。そんな風に言ってもらえるとは思わなかったし…」


「きっとアイツもわかってるから余計イラついてんだろ。罵っても解決しねえって」














だけどオレは元就と正面向いて話したい。




























「…我の事を忘れたと言うのか…。あの時の言葉も…すべてを…」







元就は一人、海沿いにいた。


寄せては返す波が触れるか触れないかの場所に立っていた。













「そなたの言葉を胸に…我は天下を取ろうと生きてきたのに…」












本当は解っている。


一番辛いのはだということは。




だが抑えきれない怒りがあるのも事実だ。



















「ここにいたのか」






「!」


振り返ればそこには渦中の人物。











「もとな……」

「我に近寄るな」









元就は強く言い放った。













「軽々しく名を呼ぶな。最早お前と我を繋ぐものは無いのだ」







違う、こんなことを言いたいわけじゃないのに











「ああ…そうだな」










違うんだ


そんな顔ではなく、本当は昔のような笑顔が見たいのに。













「早く我の前から立ち去れ」





でなければもっと傷つけてしまう





だから我がお前を傷つける前に、我を嫌ってくれ。













「でもオレは謝らないぞ」









「……は?」








何をいきなり言い出すのだ、この男。












「確かに記憶を無くしたのにはオレに非があるかもしれん。だけどな、オレも被害者だ。成長は止まって、年下の奴には見下ろされるし」



「何が言いたい…?」




「だからな、文句が言いたかったら記憶を取り戻したオレに言え!今のオレに言われたって全然意味がねえ」












元就は目を丸くした。








本当に記憶が無いのか?こいつは。

まるっきり、前のと同じではないか。



言いたい事ははっきり言うし、自分をどこまでも貫き通すし。




なんだか自分が真面目に考えていることが損のような気がしてきた。







「…そうだな。ではそなたが元に戻った時はたっぷりと言わせて貰おう」

「おう、どんとこい。その代わり、早く戻れるように手伝ってくれよ」




「ああ、任せておけ。どんなことをしても取り戻してくれる」

「…お手柔らかにな?」


























「大体経緯は解ったが…解せぬな。そなたが伊達の兄などとは」


「ああ、まったく似てねえ」



「皆言うな。それ」











あれから取り合えず全部話してみた。

オレはこうして会う人会う人に説明せないけんのだろうか…??











「どうする?思い出話でもしてみるか?伊達はそれで思い出したんだろ?」

「だが真田はふとした一言、猿飛は戦いの最中。なんなのだ、共通点が全く無いではないか」


「オレに言われてもなあー。ま、そんなわけで少し滞在させてほしいんだけどいいかな?」



そう言うやいなや、二人の目が輝いた気がした。








「おう!いいぜ」

「待て。此処は我の城ぞ。何故お前が答える。そもそもお前が此処にいること自体認めていないぞ」


「いいじゃねえか、同盟組んだ仲だろ。そんなに言うなら、連れて帰るぜ」
「誰がそのようなこと言った?帰るのはお前だけだ」

「てめえ…さっきまでの態度を棚に上げて言う事か?ああ??」
「ふん、人間過去を振り返るものではない。いちいち昔の事にこだわるな」

「…ってめ!!!」








うーん、ますます昔とは違うな。

少なくとも昔の弥三郎はあんな風に松寿丸に言えそうな子じゃなかったし。
お陰でなんにもピンときやしねえ。





「多分だけど、二人は過去の話とかしても意味無い気がする」
「「何??」」









「あまりにも変わりすぎて多分聞いても懐かしさが出ないと言うか…今と過去が繋がらないんだよね」



「フム…。まあ我も昔のことを語るようなことはあまり意味を持たぬと思うがな」

「じゃあどうするか………。取り合えず、何かしてみればいいんだろ?」





その晩、ギャーギャー言い合っている二人を他所にオレは松寿…おっと、毛利の城に滞在することにした。



関係性が判らない二人では、何をどうすれば記憶が甦るのだろう。









なんだか先行きが不安だ。