なんでも願いを聞いてくれる










あたしが怪我をして気絶した所為か、がやけに過保護になった気がする。
もうすっかり怪我は治ってるってのに心配症だねえ。

けど、こんな風に“女の子らしい扱い”ってのはあまり受けた事が無いから正直悪い気分ではないけど…ちょっとくすぐったい。










「しいな、今日はオレが晩飯奢る。なんでも好きなもん食って」
「そこまでしてくれなくても良いって――。それよりアンタ今日はもう何か用事無いのかい?」



まだ日も高い、何処かへ出かけたり次のクエストへ行ったりはしないんだろうか。
は周りから好かれるタイプだから、誘いの手も数多だろうに…。



「あ!……
あ〜〜〜
「ほら、あたしは良いからそっちを優先しな」



ほら、心当たりがあった。
に何も用事が無いなんてこと、最近じゃ稀なんだから。




「…でも夕方までには終わるし…大丈夫!だから、しいな!約束だからな」

「…解ったよ。そこまで言うならお言葉に甘えようかね」






部屋を出て行った足音は階段を降り、やがては宿屋を出て行った。
窓から下を見れば、見慣れた背中が見えた。















…あいつも変わりもんだねえ…。
何もあたしみたいな、がさつな女が怪我したくらいで気にする事無いのに。

あ、手振ってる。
誰か…いるのか?


黄色いボンボンがトレードマークの少女………あれは……ノーマか。














会話は聞こえないが、楽しそうだ。
あのノーマって子とはあまり話をしたことはないが、見た目は活発そうな少女。
も隅におけないねえ。










そのまま、二人が何処へ行くのかつい見てしまう。
方向からすれば、ギルドだろう。
そう言えば前にルーティと一緒にお宝捜しをしてるって奴がノーマって言ったっけ…。
じゃあ探索クエストかな。





…なんであたし、そんなこと推理してんだ。
そもそもが誰と何処へ行こうが気にする必要ないじゃないか。
なのに何処へ行くか探る様な真似して…いいや、忍の性だよこれは。











そう自分に言い聞かせている自分がいる。







嫌だよ、あたしは何考えてんだろう。
きっと怪我した時に軽く頭も打ったんだ。
そうでなきゃおかしい、まるでこれじゃあ……




















「おーいしいなぁ。さっきティトレイから聞いたんだけどお前怪我したんだってぇ?」
「!!」



いきなり部屋に入ってきたのはあまり今見たくない顔。
最低ナンパ男だった。



「次期頭領が油断しちゃったのかな〜?」
「うっさいねえ!!アンタそれ言う為にわざわざ来たのかい!?よっぽど暇人なんだねえ!!」
「んなわけないでしょーよ。誰かさんがずっと窓の外見て呆けてるからどうしたのか聞きに来たのよ」




その言葉にあたしの口が止まった。


普通に見ていたと思ったのに、そんなに表情に出ていたのだろうか。

いや、なんだかんだ言って変なところ鋭いゼロス。
こいつだからバレたのかもしれない。





「忍たる者…いかなる時も冷静に行動すべし…。あたし顔に出やすいのかねえ…」
「生意気ジェイやすずちゃんに比べたらそうだな。お前程分かり易い奴もいねえよなあ」



言い返してやりたいが、図星なのでなんとも言えない。
確かにジェイやすずと比べると、あたしは感情が出やすい。





「当ててやろうか?」
「何をだい?」

だろ」
「!!!」





直球で来られたからまた素直に反応してしまった。
自分の素直な反応に顔の温度が上がる。



「…だから顔に出やすいっての」
「うううううるさいよ!」



「お前が見てた方向追ってったらノーマちゃんとがいた、加えてティトレイに聞いたんだよ。クエスト一緒に行ったんだろ?」
「……」
「で、のことだからお前が怪我したこと滅茶苦茶気にしてたんだろ」
「……」
「そんで意識しちゃったってか?」
「…う、うるさいって言ってるだろ!!!」



思わず耳を塞いだ。
それ以上言われれば鈍いあたしでも自覚してしまう。

・・・・・自分の気持ちに。





「……俺様はお薦めできないけどなあ。あんな奴。

 女の子達皆にいい顔してるし、ガキだし、なんで皆あいつを
ゼロス!!!




アンタ…それ以上言ったらただじゃあおかないよ」



自分でも驚く位の大声。

一瞬目を丸くしたゼロスはにやりと笑みを浮かべた。



「ほら、悪く言われるとムカつくだろ?お前もう自覚してんだよ」

「………あ、アンタ……わざと…」

「俺様だってのこと気に入ってんのよ。そこらのがきんちょより可愛気あるし」


















・・・・・・・嵌められた。



・・・・・でもこれで解った。

















あたし、を男として意識してる。






「……」
「ま、別にどうこうしろってわけじゃねえんだ。ただお前が、“忍”ってことを理由に逃げるなら後で絶対後悔するんじゃねえの?」
「…アンタって本当に…そういうことには正論なんだねえ」
「でひゃひゃひゃ」






まだ目覚めたばかりのこの感情。

どう育つかわからないけれど、確実にあたしの中で大きくなってゆく。





ああ、もう


、どう責任とってくれるんだい?











傷はもう痛くないはずなのに、何処かが痛くて苦しかった。



今更、恋なんてするとは思ってなかったのに。









ノーマといる時に、ほんの一瞬でもあたしのことを気にかけてくれていたら
それは少し期待してしまっても良いのかねえ。





夕方、どう顔合わせれば良いのかが分からない。