誰にでも平等に優しい人。
「シャーリィ、もし良かったら今日のクエスト一緒に来てくれない?」
「わ、私で良ければ。よろしくお願いします!」
「ん、ありがと。それじゃあ、オレもう二人誘ってくるから十分後に町の入り口前でね」
数いるアドリビトムの中から私を選んでくれたことは嬉しい。
他にも魔法が使える人はいるのに、その中から私を選んでくれたんだもの。
手早く荷物をまとめ、髪の毛や服装をさり気無くチェックして集合場所へ向かう。
見えてくるのはさんとティトレイさんと………あ…っ
「よろしくね、シャーリィ」
「よろしくお願いします……しいなさん」
四人で森の中を歩いている最中、私はチラッとしいなさんを盗み見た。
私とは正反対のしいなさん。
スタイルも良いし、性格も堂々としていて同姓でも好感がもてる。
「キモノ」って言うしいなさんの里独特の服装も彼女には凄く似合っている。
前に、ロイドさんやクラトスさんも着ていてそれを見たさんがいいなあと言っていた。
「ん?どうかしたかい?」
「い、いえ!なんでもないです!」
つい見つめすぎて、目が合ってしまった。
なんとか誤魔化したけど、私見すぎて睨んでないよね…?
誤解されちゃったらどうしよう…。
「!いたぞ!目的のモンスター!」
「よし!じゃあオレとティトレイでまずひきつけようぜ!しいなは隙をついて攻撃、シャーリィはサポート魔法頼む!」
「あいよっ!任しとくれ!」
「はい!」
戦闘が始まれば、しいなさんは前衛タイプだからさんとコンビネーションが出来る。
背中を守る…って言うのかな、ああいうの正直羨ましい。
私は離れた所で呪文を唱えるしか出来ないから…。
「堅き守りよ、バリアー!!」
「サンキュ!」
でもいつも、さんは私の方を向いてお礼を言ってくれるの。
戦闘中に敵から目を逸らすなってこの間ジェイドさんに言われてたのに、それでも必ずこっちを向いてくれる。
それが嬉しくて、タイミングを外さないよう私は一層集中する。
「よっしゃあ!クエスト完了!!皆お疲れ様」
「いやあ俺等にかかれば楽勝だろ!」
戦闘が終り、ハイタッチを交わすさんとティトレイさん。
怪我が無いか確かめに行こうとすると、私の背後で唸り声が聞こえた。
「シャーリィ!!!!」
しいなさんの声が聞こえ、暖かい何かに包まれた。
その何かがしいなさんだと解るまで数秒かかった。
私の背後には大きなモンスターがいて、私を襲おうと腕を振り上げていた。
「っ!!!」
「二人共!!…てんめえ!!!喰らえ、紅蓮剣!!」
モンスターは倒されたけれど、私をかばったしいなさんが腕に傷を負った。
私は足を軽く捻っただけだったけれど、しいなさんの傷は深い。
「しいなっ!!大丈夫か!」
「シャーリィ、治療頼む!!」
「は、はい!!」
急いで怪我を治すけれど、しいなさんは怪我のショックで気を失っていた。
「早く町へ戻ろう。しいなを休ませてあげないと」
さんの言葉は仲間を気遣う者として当然の言葉、けれどそれが私の胸を痛くする。
今、さんの意識はしいなさんにだけ注がれているということだから。
「おう、じゃあ俺がしいなを背負うぜ」
「サンキューティトレイ。……ん?シャーリィ?」
「は、はい。今行きます。…っ」
歩こうとすれば足が痛いことを思い出す。
駄目だ、ただでさえ私の所為でしいなさんが傷付いたのにこんなところで迷惑をかけちゃ……
「シャーリィ、ほら乗れよ」
・・・・・・え・・・・・?
目の前にはしゃがみ込んで、私に背を向けるさん。
聞き間違いでなければ、今「乗れ」って…?
「い、いいです!!大丈夫です!私歩けます!」
「でも足痛いんだろ?オレに背負われるの嫌かもしんねーけど我慢して乗ってくれって」
「嫌じゃないです…。でも…」
「早く帰って治さねえとな」
笑顔に負けて、ゆっくりと肩に手をかける。
こんな風に密着することは初めてで、胸の音が聞こえないかどうか心配だった。
「ティトレイー。ホーリーボトル使おうぜ」
「そーだな。さっさと帰らねえきゃなんねえし。よっと…」
今だけは、自惚れても良いんだろうか。
私を見ていてくれたんだって。
「よし、これでOK。傷と違って治りがちょっと遅いけど一晩たてば治るわよ」
「ありがとう、イリア」
宿屋でイリアに回復魔法をかけてもらい、怪我をしていることを忘れないように包帯を巻いてもらった。
しいなさんは二階の個室へ運ばれていった。
運んだティトレイさんは用事があるからと何度もすまなそうに謝って帰っていった。
「イリア、あんがとな」
「まったく、アンタがついてながら何やってんのよ」
「面目ねー。シャーリィ本当にごめんな」
「私がボーっとしてたからいけないんです。さんが謝らないでください」
私とイリアに飲み物を手渡すとさんは二階へ様子見てくると上がっていった。
私の視線が二階へ向けられたままになると、イリアが肩を叩いた。
「アンタも苦労してるわねえ」
「え?!何?!」
「置いてかれた子供みたいよ、今の顔」
自分はそんな顔をしていたのだろうか、全然自覚が無い。
でも、それもそうかもしれない。
確かにしいなさんも心配だけれど、同時に行かないでと思ってしまう。
「…私、見てくる。しいなさんが怪我したのそもそも私の所為だし」
「ちょっ、アンタ足!」
「ゆっくり歩くから、大丈夫」
止めるイリアを振り切って、捻った足になるべく体重をかけないよう歩く。
階段は少し辛かったけど、上りきったら後はまっすぐ進むだけ。
壁に手を当てながら歩き、ようやく部屋の前に辿り着いた。
ドアが少し開いている。
ノックをしなければならない、と解っているのに私はつい覗き込んでしまう。
眠るしいなさんを心配そうに見つめるさんの顔。
私は見た事が無い、泣きそうな顔。
どうしてそんなに悲しそうなの?
その表情はしいなさんの前だから出るの?
また胸が痛くなった。
数分とせずにしいなさんが目を覚まし、横にいるさんに驚いていた。
目が覚めたことが嬉しかったのか、さんはとても嬉しそうだ。
「しいなっ!本当にごめん!!怪我させて…」
「何謝ってるんだい。これはあたしが勝手にした怪我だよ?アンタが責任感じることないだろ」
「いいや!女の人を傷物にするような男にはならないって思ってたのに…」
「…アンタ、ロニやゼロスの影響受けてないか?」
楽しそうに会話する二人を見て、益々ノックする手が引っ込んでいく。
割って入ることなど出来ない、とそう言われているような気がして。
やっぱり、私じゃあ特別にはなれないんだ…。
誰にでも優しいから、私にも優しいんだ。
それかお兄ちゃんと仲が良いさんのことだもの、妹のようにしか思ってもらえてないのかもしれない。
私はそのまま、ゆっくりと階段へと戻っていった。