再び戻ってきた軍基地跡、イクシフォスラーのある部屋。
ジェイとリフィルで簡単にだが機体を点検する。
エンジンも、回路も問題ない。
後は動力である、ヴォルトのマナを注ぐだけ。
「それでは、さん。お願いします。機体に触れるだけで良いと思いますよ」
「うん……」
は右手の腕輪を見つめた、何もはめ込まれていなかった部分に紫色の石が一つ。
それはヴォルトのエネルギーが蓄積された箇所、まるでアメジストのようだ。
右手をそっと伸ばし、イクシフォスラーに触れる。
瞬間、自分の中から何かが溢れ出すような感じがしたかと思うとイクシフォスラーが作動した。
「やった!、成功だ」
「うん!!」
セネルと喜びを交わし、ガッツポーズをとる。
ただ、リフィルとジェイだけは何かを考えていた。
「うっわー中も広いなあ」
「驚いたわ…。中の設備…とても創世紀時代とは思えない」
中には休憩室、簡易シャワー室、それになんと小さな小型艇まで装備されていた。
「まあ流石にまだ使えないでしょうが…。コレ一台あるだけで旅がかなり楽になることは間違いないですね」
小型艇を見ていたジェイが呟く。
イクシフォスラーと違い、こちらはヴォルトのマナだけでは動かないようだ。
まだ使えるようになるのは当分先になるだろう。
「じゃあ出発しよっか。…あ、セネルどうする?オレ達これからレディアに行くんだけど」
今回軍基地跡まで船を出してくれたセネル、だが本来の目的地であるレディアまで一緒に行くと言う話はしていなかった。
「あー…そうだなあ。付いて行きたいが…流石にシャーリィ達に何も言わずにはいけないからな」
「そっ…か。…そうだよな、心配するよな」
「…(むしろ勝手にに付いて行ったらシャーリィからずるいって怒られそうだ)だけどいつでも俺力になるから。頑張って来いよ」
「おう!」
というわけで、セネルとは此処で別れ三人は王都レディアへとイクシフォスラーを発進させた。
「飛んでる…。っすっげえええ…!!」
窓の外を見ながらはしゃぐを見て、リフィルはクスリと微笑む。
「フフ、ああしてると別人のようね。モニュメントの中では凄く冷静に見えたのに」
「良くも悪くも自分に素直なんじゃないですか?」
のどかな雰囲気が流れるイクシフォスラー内。
不意にが静かになった。
「?どうかしました?さん」
「酔ったのかしら…。?」
「ねえ、今…何か物音しなかった?」
「「?」」
の言葉に二人は顔を見合わせる。
ジェイもリフィルも特に気づいた事は無いらしい。
だがはまた何か聞きつけたらしく、コックピットを出て行った。
「!?」
向かった先はイクシフォスラーの非常脱出口のある倉庫。
使われていない飛行艇だったからこそ、荷物は乗っていない。
ガランと広い倉庫、灯の点いてない状態だと闇の所為で無限に広く感じる。
「……誰か、いるのか?」
勿論、隠れる所が無いのだから誰もいないのは一目瞭然だ。
けれど、は闇に向かって呼びかける。
何かいると確信しているかのように。
「いるなら、出て来い!敵なら……」
腕輪に力を込め、剣を取り出す。
すると息を潜めていた「何か」が動きを見せた。
「……お待ちください……怪しい者では…ありません」
少し擦れ気味の声、声の主は弱っているのだろう。
呼吸も少し荒い、だが未だに姿は見えない。
「何処……!!」
闇から何かが現れる。
それは犬、のような豹、のような動物の形をまとって降り立った。
「誰…!?」
「私は……うっ」
フラフラとおぼつかない足取りが崩れ、黒い体は横に倒れた。
は剣を仕舞い、駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「申し訳ありません…。少し…マナを消耗しすぎたようで…」
「マナ……」
は手を動物に当てると、自分の中にあるマナを分け与えるイメージをした。
体内を廻る力が流れる感覚を感じながら、動物の背を撫で続けていた。
「…これは……大樹のマナ……。……貴方様は!!!!」
元気になったのか、がばりと起き上がった動物。
そしての顔を見ると、目を見開き驚いた。
「おお…ようやくお会い出来ました!お初にお目にかかります、様!」
「え…なんでオレの名前…」
「私は貴方様に近しい存在でございます。お話はマーテル様から伺っております」
礼儀正しい口調で喋る動物に混乱を隠せない。
「これは私としたことが、自己紹介がまだでしたな。
私はセンチュリオン・テネブラエ。テネブラエとお呼び下さい」
わー……
バタバタバタ…
「あら、戻ってきたわ」
段々と近づいてくる足音を聞きつけ、コックピットの入り口に目を向ける二人。
扉が開き、いきなり走りこんできた。
「どうしたんですか?」
「何かいたの?」
「こ、こ、こ」
「「こ?」」
息が乱れている所為か、言葉が発せない。
ゼェゼェと呼吸を整えようとするの後ろから現れた影が一つ。
「初めまして。テネブラエと申します」
流暢に喋りながら現れた黒い動物。
「……何処で拾ってきたの?」
「さん、動物はミュウだけにしてください」
「拾ってねー!!!ってか違うんだよ!なあ?」
「ええ。私を動物等と一緒にしないで頂きたい」
論点がズレている。
一先ず、落ち着こうと話を整理する。
「で、なんですか。この生き物は」
「私は闇を司るセンチュリオン。テネブラエと申します」
「―――センチュリオン?」
リフィルが眉を顰める。
考古学を研究している彼女にも知らない単語、と言うことは歴史上表には出てこないと言う事。
「ええ。センチュリオンは各々属性のマナを司りそれをコントロールする役目を持った者達です」
「それは精霊とは違うのかしら?」
「はい、違います。我々は大樹より生み出されたマナを配り与える存在です。精霊にも魔物にもヒトにも」
「…つまり一番上に大樹ユグドラシル、そこから貴方達センチュリオンにマナが分別され、初めて生きるモノ全てに分け与える…そういうことかしら?」
「素晴らしい。その通りです。一口にマナと言っても一人一人性質が異なるのですよ。血液型のようなものですかね」
「…で、そのセンチュリオンがどうして此処に?」
ジェイはまだ警戒をしている、その証拠に先程から手をポケットに入れたままだ。
いつ、何があっても対処出来るよう中の手は武器を握り締めている。
「…この世界のマナが薄れていることは知っていますね?」
「ええ。大樹が毒素に侵されているから…純度の低いマナがようやっと生み出されている状況だと聞いているけれど」
「そうです。それにより、我々センチュリオン達も力を失っていきました。我々は無色なマナに色をつける存在、故に一番マナに敏感なのです。
穢れたマナを取り込んでいけば侵蝕されていくのも遅くないのです。かくいう私も消えかける寸前でした」
の脳裏に出会った時のテネブラエの弱々しい姿が思い浮かばれる。
そしてその時、自分がとった行動――――…
「…まさか、オレ?」
呟いたに二人の視線が向く。
テネブラエは首を縦に振った。
「そうです。貴方様が先程ヴォルトのマナを注いだ気配を辿って私は地に降り立った。けれどマナの薄さに呼吸もままならぬ状態でした。
しかしそこで貴方様から分け与えられたマナのお陰で今こうしてお話出来る状態なのです」
深々と頭を下げるテネブラエ。
は少し照れくさくなった。
「―――分け与えた?」
「さん、それがどういうことか解ってます?」
「え?」
二人の厳しい目がを捉えた。
「只でさえ、枯渇しかけている純度の高いマナを分け与えるなんて自殺行為ですよ?」
「何故貴方にそんなマナが宿っているのか判らないけれど、それは貴方に必要な分しか無いのではなくて?」
「安易にそんなことをしていれば」
「今度は自分のマナが無くなるわよ」
以前、シャーリィが熱を出した時にミュウにも言われた言葉と同じ事を二人は言う。
「さんのマナは今一番貴重なものと言っても良いほどですの。だから与えるつもりでも逆に吸い取られてしまうかもしれないですの」
「あ…そっか。ごめん…」
「僕らに謝られてもしょうがないんですけどね。マナが自分にとっての生命エネルギーだと言う事を常々お忘れなく」