半ば強引に同行させられる形となったが、実際一緒に行く事で俺達にもメリットはあった。




「そう言えば名乗るのが遅れたわね。私はリフィル・セイジ。この近くの街で考古学の教授をしているの」



どうやら落ち着いたらしいリフィルさんはようやく冷静に自己紹介をしてくれた。
ここで判ったことだが、リフィルさんはヒーラーらしく俺達にいない回復役を担ってくれとても助かる。




「オレは、イクセンから来たアドリビトムなんだ」

「僕はジェイと言います」

「俺はセネル・クーリッジ、エルグレアから来た」




この雷のモニュメントは精霊がいるという説がかなり有名だから、考古学としてもかなりの興味対象になるらしい。
精霊は世界の成り立ちにも関わっているらしく、昔から多くの研究者が調査をしている。




「貴方方はどうして此処へ?観光…なわけはないわよね。ギルドのクエストかしら?」
「ううん、オレ達は…」





「ええ、そうです」




の言葉を遮ってジェイが答えた。

俺ももジェイを見る。


今回の件はクエストではなく、独断行動の筈だ。


なのに何故今ジェイは嘘をついたのだろう。





嬉々として先陣を切るリフィルさんの後ろで俺達はこっそりジェイに聞いてみた。









「なんで正直に言わなかったの?」
「別に嘘じゃないですよ。結果的にはクエストの為になる行動なんですから」
「それでも遮ってまで言わなくても良いだろ」
「会ったばかりの人にそこまで詳しく話す必要は無いでしょう?どんな人物かも判らないんですから」


「「…まあそうかなあ…」」



正論を並べられては俺達はそれ以上何も追求出来なかった。





























「此処が最深部のようね」



これ以上奥は無いだろうと言う位進んできた俺達の前に現れたのは、円状に置かれた台座のある広間だった。
床には何やら不思議な模様が描かれており、それを観察しようとリフィルさんは飛びついた。




「コレは…フムフム…。おお!!何やら書かれているな!しかしこの文字は何だ…?イスパニア語にも似ているがメルニクス語にも類似している」


「…イスパニア語とメルニクス語…?」



ジェイの呟きに俺達は視線を床に集中させた。
陣の上に見たことも無い文字が書かれている。入り口の台座の文字は擦れていたのに此処はくっきりと残されている。


勿論俺に読める筈も無い、ジェイもマジマジと見つめているが読めているわけじゃなさそうだ。
リフィルさんも手帳を取り出し、資料を基に解読を試みているようだがまだ読めていない。





だが、一人だけ違った。






が文字を一文字ずつ追っている。







その視線がある箇所でピタリと止まった。
文字の一部分がまるで外し取られたかのようにすっぽり無くなっている。



はその抜けた部分の形を見た後、懐から石版を取り出す。


そっと宛がったそれは驚く程ピッタリだった。




文が完成したのか、は口を開き読み始めた。


【この地に眠るは猛き雷。紫電の使徒よ、この声届いたならば我の前に姿を現せ】

「…っ…!?」
さん…!!?」
、貴方……!!」







眩しい程の雷鳴が間近で鳴り響く。
雷がバチバチと音を立て、台座に落ちていく。

危険を感じ、俺達はその場から離れた。







台座は雷を浴びても壊れることなく、帯電した雷を更に上空へ再び放つ。
その雷が形になり、やがては球体となった。



「…雷の精霊……ヴォルトだわ…!!!まさかこの目で見られる日が来るなんて…」



【◎×★▼煤z



不思議な言葉が頭の中に響いてくる。
何を言っているかさっぱり判らない。
皆が周りをキョロキョロと見回す中、だけが球体を見据えていた。









【#@&■☆*】

「…“女神マーテルの加護を持ちし者よ、我を呼んだのはお前か?”と言っているわ」
「リフィルさん、解るのか!?」
「ええ。コレはメルニクス語だから…。けれど女神マーテルの加護って…」




皆の視線が一点に集中する。


それは真っ直ぐと、に向いていた。








【△*♪∴○#+】
 
我に何を望む?

再び聞こえる声、リフィルさんが同時通訳してくれる。

は閉ざしていた口を開き、ゆっくりと喋りだした。




「……オレに力を貸して欲しい。けれどオレは召喚士ではないから資格は無いかもしれないけど…」




【●▼煤{&☆$】
 確かに契約は結べぬ





その言葉にの顔が暗くなった。











【%*□◎∵★♪#@】
 だが主と我の間に契約は必要ない





「!!」


が驚きの表情を見せる。
ヴォルトは小さな雷を発生させ、それをに向けて放った。
その雷はの腕輪へと飛んで行き、やがては吸い込まれていった。








 【☆△$@!★○■】
 我が兄弟、力がいるならいつでも我を呼べ








そう言ってヴォルトは消えて行った。









目の前で起こったことがまだ完全に把握出来てないが、一つだけ解るのは







がヴォルトの力を得た、ということ。







ヴォルトが消え、雷鳴が治まるとまたもリフィルさんが暴走を始めた。






!!!今のはなんだ!!どういうことだ!」
「リリリリリリリフィルさん、おおおおおおおお落ち着いて」
「人間の前に中々姿を現す事の無い精霊が、あまつさえ契約も無しに力を貸したなんて…。これは例外中の例外だ!」
「めめめ目がまわる〜〜〜〜…」



の肩を引っ掴み、ガクガクと揺さぶり続けるリフィルさん。
段々との顔色が青くなっていくんだが…。





「はい、そこまでにしてください。まず本人が一番解ってないみたいですから」



ジェイの声にようやくリフィルさんが落ち着いた。

確かにヴォルトの言葉を聞いた瞬間一番驚いていたのは本人だろう。













…きっと、の生い立ちが関係してるんだろうな。














エヴァで俺はの出生を聞いた。
だからどういう存在で、使命を持って生まれたか分かる。


きっとが“ディセンダー”だったからこそ、ヴォルトはに力を貸したんだろう。




それを知らないリフィルさんに説明しろと言っても無理な話だ。
ジェイは…知ってるのだろうか。
けれど、が俺達に話してくれたのだってあの件があったからだ。
俺より前から一緒にいたスパーダだって知らないことだったんだからそう軽々と話すとは思えないが…。












「リフィルさん、職業上気になるのは察しますが…。少し抑えて貰ってよろしいですか?流石に出会って間もない貴女に何でもかんでも話すことは出来ないんですよ」





ジェイの言葉は少し厳しいかもしれないが、今はそれが助かる。
リフィルさんはそれ以上に問いただすことはしなかった。




「まあこれで僕達の目的は果たされましたね。それにしても…あの石版はさんが持っていたものですよね?」
「うん。今まで行った神殿や遺跡にあったやつ…。まさかこんなところで使うなんて…」
「精霊との接触を封じる為にでしょうか…。しかしそれにしても誰が…」













凛とした目でを見つめ、リフィルさんが名を呼んだ。

さっきまでの変貌ぶりはもう無い。








「いきなりで不躾でしょうけど、お願いがあるの。私をしばらく同行させてもらえないかしら」

「!!!」





表情は真剣そのもの、だからだろう。は驚いていた。



「どうしてです?僕達の目的も知らないと言うのに」
「ええ、だからこそ。自分の目で確かめたいの。今さっきのこととかね。

 けれど、に問いただすよりは自分で確かめて答えを捜そうと思ったの」




俺はに視線を送る。
目が合った、は一回首を傾げ一瞬だけ考える素振りをしたかと思うと






「いいよ」





即答。






「ちょ、さん?」

「だって、オレも答えられないし。それにリフィルさんがいてくれれば戦力的にも助かるでしょ?」


笑顔を浮かべ、右手を差し出す。






「よろしく、リフィルさん」
「ええ。お願いするわ」