町の復興は順調に進んでいった。
これなら元の生活に戻る日もそう遠くは無いだろう。
さんの具合も良好のようで、起きた日から作業を手伝っている。
回復が早いのは体質なのか、あれ程消耗した体力をもう完全に取り戻しつつあった。
僕はと言えば、今回の調査結果を纏めて一旦里へ戻った。
遺跡とは名ばかりの施設、謎の大男、………そして、あのマナに満ちた部屋。
今世界に散在するマナは大部分が純粋と呼べるものには程遠くなっている。
薄れ、穢れたマナの中僕等は生活している。
だが、あの部屋に満ちていたのは恐ろしくも清純なマナ。
まるで滅菌されたかのように一点の陰りの無い。
体が既に穢れたマナに順応している僕達はあの中では満足に動く事が出来なかった。
まるで淡水魚が海水では生きられないかのように。
けれどさんはあの中であいつと戦っていたんだ。
相手が逃げ帰る程の手傷を負わせ、退けた。
と言う事はさんはあの中で通常に動けていたと言う事になる。
遺跡の調査で出向いたと言うのに、益々謎が深まる、それどころか新たな謎が生まれた今回のクエスト。
スラクタウンに戻ってみれば、町の住人が僕を宿屋へと案内した。
町を救ってくれた恩人に礼がしたいと、他の皆さんも同じくして宿屋に集められたようで中に全員が集まっていた。
「皆さんお集まりで」
「ジェイ、おかえりー」
さんが僕に手を振る。
それにならってメルディさんやエルマーナさんも同じ様に手を大きく振ってきた。
空いていたスパーダさんの隣に座るとずいっと紫色の液体の入ったグラスを渡された。
「…なんですか、これは」
「見てわかんねーのかよ。葡萄酒だ」
「そんなの見れば判りますよ。そうじゃなくて、僕未成年なんですけど」
「堅いこと言うなよー。今日ぐれえは無礼講だろうが!」
「貴方いつも無礼講じゃないですか?」
出されたグラスをやんわり断ると今度はさんから別のグラスを手渡された。
それに入っていたのは淡いピンク色の液体。
「此処の特産品、ピーチジュースだって。甘くて美味しいよ」
ふわりと香る果実の匂いが甘さを感じさせる。
かつん、と一回さんのグラスに自分のグラスを当てると一口飲んだ。
「…美味しい」
「だろ?ヴェイグお薦めなんだって。なー?」
少し離れた場所に座っているヴェイグさんはこくりと頷いた。
見れば彼の周りは既に瓶が二本程空いている、…桃好きなんだろうか。
「今回のこと、里に報告に行ってきました」
「…そ。オレも大佐に連絡とったよ。次の目的地も決まった。まあ一回イクセンに帰ってからだけどね」
「…何処へ行くのか聞いても?」
「レディア」
レディアとはエヴァと並ぶ三大王都の一つだ。
この世界には三つの王家が統べる街がある。
エヴァ・ヴィノセ・レディア、この三つにそれぞれ統治する王族がいる。
彼等は対立することなく同盟を組み、各々の領地を治めている。
「あそこの研究機関にいる大佐の知り合いが色々古代のものとか調べてるんだって。だから参考までにね」
「成程…けれどレディアへ行くにはかなりの距離がありますよ?」
「うん…。今それ考えてるとこ。流石にのんびり歩いていくような距離じゃないからなあ…」
レディアは今いるスラクタウンがある大陸の向かいに位置する大陸にある。
このご時勢船は出ていやしない、陸伝いに行く事も可能だがそれだと大陸を二つ越えなくてはならない。
「空飛ぶ乗り物でもあればなあ…」
「そんな便利な物が………。待てよ…、確か昔の文献で…」
「?」
確か、まだマナが満ちていた頃マナで動く乗り物があった。
それは雷の精霊であるヴォルトのマナがあれば動く。その乗り物が保管されている所も知っている。
「さん」
「お?」
「レディアに行く前に少し寄り道をしませんか?もしかしたら、見つかるかもしれませんよ。乗り物」
「マジで!?」
ただし、あの乗り物を起動させるにはくどいようだが“雷の精霊 ヴォルトのマナ”が必要だ。
それを手に入れるにはヴォルトと契約を結ばなければならない。
さんは召喚士ではなく、剣士だ。
けれど、何故かこの人ならなんとか出来るんじゃないかと期待がもてる。
「僕が道案内役を再び受けましょう。一度、イクセンに戻るのなら其処からの最短ルートを通りますから」
「サンキュっ、ジェイ。よーし明日からまた旅だー。今日は飲むぞー!!」
「ジュースで酔ってるんですか…?」
正直言って、面倒事に自分から首を突っ込むなんて僕の柄じゃあない。
だけど、その面倒事にこの人が関われば意外な事実が発覚していく。
手間に比例して利益はかなり大きい。
それに…僕の予想をいつも上回るこの人を調べるのも面白そうだ。
一夜明けた今日、イクセンへ向かう僕等はスラクタウンの住民に別れを告げた。
本当は朝早く出ようと思っていたのに、昨夜の酒が祟って二日酔いになった者(ロニ・スパーダ)のおかげで出発が遅れてしまった。
日が完全に昇りきり、住民達が活動を始めた頃町の入り口には六つの影が僕等を待っていた。
「行くんだな」
「…ヴェイグ、リッド…モーゼス、アリエッタにメルディ、エルマーナ…」
旅支度をしている僕等を見て、状況を察したヴェイグさんの言葉に女性陣がさんに駆け寄る。
「兄ちゃん!!行ってまうんか!?…ウチ寂しい〜…」
「メルディもクィッキーも寂しいな。、また会えるか?」
「…行かないで欲しいけど…。アリエッタ寂しいの我慢するから……また来てね」
「皆…。うん、また必ず会いに来るよ」
この人の一体何処からこれだけの人を引き寄せる力が出てるんだろうか…。
今回のメンバーであるスパーダさんやロニさんだってこの人についてきたわけだし…この僕でさえ、彼には吸い寄せられる何かがある気がする。
優しく微笑みながら、三人の頭を撫でる姿はまるで兄のような父のような、そんな親愛を感じる。
だからだろうか、周りが微笑ましく見つめているのは。
さん一人が女性に囲まれているのにロニさんもスパーダさんも気にしていないようだ。
…いや、どちらかと言えば女性達に対してさんを取られた気になっている…。
「、なんかあったらワイに言うんじゃ!いつでも力になったる!」
「次会った時は一緒に狩りにでも行こーぜ。楽しみにしてるからよ」
「…今度は俺もお前と一緒に旅がしてみたい」
「うん!また来るよ!!皆、元気でな!!」
一人一人としっかり別れを済ませ、僕等はスラクタウンを去った。
〜オマケ〜
昨夜の酒の席での会話。
「おう、ロの字にスの字。…どっちかワイと代わらんか?」
「はあ?どういう意味だよモーゼス?」
「どっちかスラクタウンに残らんか、って言う意味じゃ。その代わりワイがについていく」
「何言ってんだよ。俺はお断りだぜ。頼むならロニに言えよ」
「くぉらスパーダ!勝手な事言ってんじゃねえ!確かにこの町の女性は可愛いが、俺はの兄貴分として残れねえよ!」
「それはワイが代わっちゃる。安心せえ」
「安心できるか!!」
「お、なんか面白そうなことやってんな〜。どうせなら飲み比べで決めれば?」
「五月蝿いぞ、二人共。正々堂々勝負で決めろ」
「望むところじゃ!」
「絶対負けねえ!!!おらスパーダ!テメエも強制参加だ!」
「なんで俺!!?ロニとモーゼスの問題だろ!?」
「テメーが余計なこと言うからこうなったんだろうが!!!」
「やれやれー」
「まったく…落ち着きの無い奴等だ」
こうして二日酔い犠牲者が出た。
なんとかかんとかロニはモーゼスに勝利したと言う。