どの位の時間が経っただろうか。
息は乱れ、体力は削られ、擦り傷切傷なんてもう数え切れない。


だが目の前の男は全然堪えていないようだ。





「温い…温いわ…。まったくこんな弱っちい奴相手にクヴァルがやられたとはなあ…」

隆々とした筋肉、それは巨大な斧を片手で操る程。
とは一回り程も違うその体格差。





地下に降りて来たを出迎えたのはバルバトスと言う男。
の姿を見るなり、武器を構え襲ってきたのだ。


勿論、この場所にいることから敵だと言う事は百も承知だ。


だがその実力は圧倒的だった。















「…スラクタウンを襲ったのはお前か?」
「フン、労働力を欲していたものでね。だが大人しくしていればいいものを…」
「…っ!!」




床を蹴り、は走り出した。
正面からの攻撃は全て受け止められ、跳ね返されるのはもうわかっている。
ならば、攻撃を誘いそれをかわした上でカウンターを狙うしかない。


自分の持ち味はスピードだ。
しかも相手はどう見てもパワータイプ、なら速さは自分の方が上だろうと思った。






「チョコマカと……
鬱陶しいわぁ!!!!
「っ!!」




その重い攻撃は空気を震わせ、動きを止める。
思ったように動けず、直撃ではないにしろ攻撃を喰らったは地に倒れた。







「…っ…」
「弱い…。その程度の力で何故我等に抗う?どれ程愚かなことが知っているのか?」
「……愚か……?」



「そうだ!この世界の人間共は都合が悪ければアドリビトムに頼めば良いと思っている他力本願な奴等ばかりだろう?!
 そんな世界を守るなど、愚か以外何物でもないわ!!」


「…っ……!!」















『ありがとう、これ欲しかったの』

『取り返してくれたの!?お兄ちゃん、ありがとう』

『助けてくれてありがとう』


『いつも、ありがとう』








「………っ黙れぇぇぇぇ!!!!」



どこにそんな力が残っていたのだろう。

だけど気づけば起き上がり、剣を揮い、バルバトスに向かっていた。
段々と力が上がっていくのが解る。
その証拠に相手は受けるだけで精一杯のようだ。






「確かに、オレ達は人に頼まれて仕事をする。ああ、そうさ。それは変わらない」



右腕が悲鳴を上げている。
普段以上に酷使しすぎたのだ。



「フン、それで奴等はお前に何を返す?それだけの代価に見合ったものなのか?ほんのはした金ではないのか?」



右腕の状態に気付いたのか、段々押し返されていく。
けど、怯まない。



「るせえ!!!やりたいからやってんだよ!!それで充分じゃねえか!オレ達は誰も強制されてなんかねえ!!



ありがとう、と言ってくれる人がいる。
自分の行動で感謝してくれる人がいる。

だってどの任務を受けるかはその時のオレ達の気分なのに、偶々その仕事を請けただけなのに。


それでも皆、「ありがとう」って笑うんだ。






振り上げた右腕の剣は一瞬の隙をついて、バルバトスの左腕を掠めた。
だが、その反動も勿論自分に返って来る。
その瞬間を狙って剣を弾かれ、俺は無防備になってしまった。



「フン、よくやったようだがここまでのようだな…。
死ねぇぇぇぇぇ!!!
「…ッ……」



斧が迫る。


だけど不思議と頭は落ち着いている。







バタバタと数人の足音が聞こえる。




ジェイ達かな?もしかしたら敵の増援かも。





けどそんなことどうでも良かった。





ただ







コイツだけには絶対負けたくねえ!!!!!









「……獅子戦吼っ!!!」



やロイドなど剣士が使うのと技名は同じだが、今のは剣を持っていない。
懐に飛び込み、頭突きを喰らわせ獅子の咆哮を放つ技。
セネルが使っていた、格闘技だ。




バルバトスは剣を持ってないに油断していたのか直撃を喰らった。
吹き飛ばされ、壁に体を打ちつける。




「がっ…!!」
「……」




そのままフラリとも倒れる。
元々剣で使う技を肉体を酷使して、体力も限界まで使った。
もう動けない。





さん!!!」
!」



聞こえて来た声は仲間の声だ。
だけど彼等はこの部屋に入れば満足に動けない。
起き上がって、声をかけたいけれどそれも出来ない。
バルバトスはまだ完全に倒したわけじゃない、動けと体に命令するも足はまるで他人のもののようだ。







「…みんな…来るな…」


「なんだ…この部屋…。息苦しい…」
「あの男…ワイらを閉じ込めちょった奴じゃ!まさか言う奴が倒したんか!?」
…っ…!!」




アリエッタが我慢ならず部屋に入ってくる。
それを合図に皆が入ってこようとするがやはり清浄すぎるマナが充満した部屋ではろくに動けない。
足元がフラフラとおぼつかない中、を部屋から運び出そうとする。



「良いから…皆、この部屋から出て…」
「何言ってんだよ!お前も一緒に決まってんだろ!」



リッドがを起こそうと右腕を掴む。
痛みが走り、が顔を顰めるとリッドは焦って手を離した。


、酷い怪我な…。メルディ、治すよ」
「良いから…逃げ……!!」



見ればさっきまで倒れていたバルバトスが起き上がっている。

全員が警戒を露にすると、急に高らかな声で笑い始めた。



「フフフフ……ハハハハハハ……
フハハハハハ!!!!いいぞぉ…お前!!、とか言ったな……。その名、覚えておこう。
 
 今回は引いてやるが、覚えていろ。必ず、お前は俺がこの手で葬ってやる!!」




そう言い残し、バルバトスは姿を消す。
完全に気配が消え、本当にいなくなったのだと知るとは力尽き倒れた。


!!!」
「メルディさん、取り合えず回復を!ひとまず此処から出ましょう!」





ヴェイグがを背負い、ジェイが先導して遺跡を脱出する。
その時メルディは目の前の台座に奉られてる石版に目がいった。
そっとそれを手に取り、マジマジと見つめてみる。
だがメルディには石版に何が刻まれているのか解らない、故に後でに見せようと持って帰ることにした。






























「………う……」


!!大丈夫か!?」
兄ちゃん!」



うっすらぼやけた視界に映ったのはホッとした顔を浮かべるスパーダと涙目なエルマーナの顔だった。
辺りを見回すように首を動かしてみるとそこは見覚えの無い家の中だった。

記憶を辿ってみるとバルバトスを退けてから覚えていなかった。
ああ、倒れたのだ。






「この馬鹿野郎〜〜!お前って奴はまた一人で無茶しやがってぇぇ」
「兄ちゃん死んだらどないしよかと思ったわ〜〜!でも起きてくれてほんま良かった〜〜」



起き上がれば縋るように抱きついてくるエルマーナ。
その温かさに、生きていられたと実感出来た。




「……そうだ!石版!!」



すっかり忘れていたが、遺跡調査の目的の半分はあの石版だ。




「石版ってこれか?」


スッと差し出されたそれは、まさしく目的のものだった。
石版とスパーダの顔を交互に見比べる。



「メルディが持って帰ってきたんだよ。俺達にはさっぱり意味がわかんねーけどお前はコレ解るんだろ?」
「…メルディが…?そっか…良かったぁ」



ホッと一息つき、そのままベッドにリターン。
急に肩の力が抜けたみたいだ。





「起きたんならあいつ等呼んで来るわ。エル、おめーはモーゼス達呼んで来い」
「了解っ」


二人が部屋を出て行き、だけが残された。

部屋を見回してみると、どうやら此処は宿屋のようだ。
だがスラクタウンの建物は大半がボロボロになっていたはずだが、此処は別の町なのだろうか?






「おう!目が覚めたか!」
「もう大丈夫なのか?」


ドアが大きな音を立てて開き、どっと入ってきたのは見覚えの無い三人。
向こうは自分のことを知っているようだが、生憎には彼等と知り合った記憶が無い。



「ワイはモーゼスじゃ。よろしゅうな」
「俺はリッドだ。もう大丈夫なのか?」
「ヴェイグだ…。三日も寝ていたが…」

「三日ぁ!?」




それに驚くのはの方だ。

三日も自分が寝ていたなんて知らなかった。




「お前が寝てる間に宿屋だけでも修理しといたんだ。まだ他は全然だけど」
「ジェー坊達も手伝ってくれちょる。この様子じゃ元通り生活出来る日は遠く無いじゃろ」

「そっか…。じゃあオレも」

「まだ万全じゃないんだろう?無理をするんじゃない」
「大丈夫だよ。三日も寝てたんだからその分動かなきゃね」
「くかっかっかっか!根性のある奴じゃ!」




起き上がれば体は重いものの、右腕の痛みも体中の切傷も消えていた。
恐らく治癒術かけておいてくれたのだろう。
この礼も言わなければならないし、もう寝ている必要も無い。











!!元気になったか!!メルディとってもとっても嬉しいよ!!」

…良かったです…」

!!おまっ心配かけやがって!!」





外に出るなり、三人からの抱擁と言う洗礼を受ける。
内二人は女の子だけど、流石に病み上がりには応える、けれど悪い気はしない。



「ありがと、皆。…メルディ、だろ?怪我治してくれたの。お陰でオレ何処も痛くない」
「ホント!?…良かったなー」




キョロキョロと辺りを見回してみる。
まだ会ってない人物、ジェイがいない。






「ねえ、ロニ。ジェイは?」
「ああ?そういやあ見てねえな。…でもこの町の復興が早かったのはアイツの指揮があってこそだったんだ」
「…ジェイの?……凄い…」



町を見れば、その働きぶりは一目瞭然だ。
まだ完璧ではないにしろ、普通の暮らしに戻る日もそう遠くないと見える。
町の人々も表情明るく、復興を頑張っている。







「よしっ!オレも手伝う!何すればいい?!」
「お前今起きたばっかだろうが!無理するんじゃねえ!」
「平気平気!!」





だって皆頑張っているのに一人だけ寝ているなんて出来やしない。