「や…やめ…ひぃっ…うぎゃああああ!!言う、言うから、やめ…やめてぇぇぇ!!!」
断末魔の叫び声。
扉の向こうはどうなっているのか、気になるが絶対に見たくないと誰もが思った。
見れば自分が後悔することになるのだ。
「ああ、見なければ良かった」と。
現在、捕らえた男に情報を吐かせている最中なのだがそれを行っているのはジェイ。
彼曰く、忍のやり方、で口を割らせている……らしい。
教育上宜しくない、とのことで此処にいるのは男性陣のみ。
女性陣は少し離れた所に居させ、この状況を知らせないようにしている。
「…ろろろロニ…」
「みみみみ耳を塞いどけ…。聞いたら負けだ…」
「何やってんだよ…おっかねえ…」
外にいるとは言え、声は筒抜け。
自分がやられているわけではないのに震えが止まらない。
ふと、静まり返った。
耳から手を離し、一同が様子を伺う。
すると扉が開き、笑顔のジェイが出てきた。
「さて、行きましょうか」
「「「……はひ」」」
その笑顔が何を意味しているのだろうか、三人は次々と浮かび来る疑問の声を飲み込んだ。
「遺跡に入るのは簡単です。ただ、罠が半端無いそうで」
「おいおい、罠があるのに簡単なのかよ…」
げっそりとした顔でロニが呟く。
恐らく暁の里の罠が思い返しているのだろう。
あのようなものが遺跡にゴロゴロあると思うとゾッとする。
「いちいち扉ごとにパスワードが必要だそうです。間違えれば罠が発動。それ以外は問題ありません」
「パスワードかあ…。解いてる時に敵が襲ってきたら厄介だね」
「…本当にあいつら連れてくのか?」
スパーダのあいつら、とはエルマーナ・メルディ・アリエッタのこと。
無事に出られるか判らないような場所にあの子達を連れて行って態々危険に晒さなくても、と彼は暗に言っている。
その言葉にジェイは頷く。
「外も危険に変わりありませんしね」
ジェイは少し古ぼけた地図を取り出した。
「?これは…」
「遺跡のです。あの男が持っていました」
「…妙にシンプルな内部」
「こりゃ隠し通路でもあるんじゃねえの?遺跡でこんな一本道だらけって有り得ねえだろ?」
地図が指すには入り口から一番奥まで、色々な部屋を通過する割に一本道。
部屋数は多いが、これなら奥まで行くのにそんなに時間はかからないだろう。
「…そんなことは吐かなかったんですけどねえ…」
その言葉を聞いた瞬間三人がビクッと肩を震わせた。
確かにあれだけ悲鳴を上げるほどのことをされた者が嘘をつけるわけがない。
「で、でもこの通過する部屋全部が素通り出来るようなもんじゃないからじゃない?だから一本道なのかも」
「…まあ一理ありますね。一つ一つパスワードがいるという点でも慎重さが伺える」
「面倒くせえ…」
嫌そうな顔をしたスパーダを諌める。
頭を使うということが彼にとっては重荷なんだろう。
「さあ、乗り込みましょうか」
蔦が全体に巻きつき、壁は色あせ、所々壁が剥がれている。
時間の流れを感じさせる外観の遺跡。
出入り口はすぐに見つかった。
それは大量の足跡が残されていたからだ。
同じ跡とまったくバラバラの跡。
同じものはきっとこの遺跡を住処にしている賊のものだろう。
そしてこのバラバラなのがスラクタウンの住民のものだと伺える。
「大小様々な足跡がありますね…。町の人間は此処へ連れて来られたと思って良いでしょう」
「こっちはあいつ等が履いてたブーツの跡だな」
「中は…適度に灯りがついてやがる。遺跡だってのに」
一番前をジェイ、一番最後をロニが歩く事にして一列で中へ入ってゆく。
は今までの遺跡の経験からして、またも床が抜けるのではないだろうかと思ったがどうやら今回は違うらしい。
けれどあのマナに満ちた場所は今までの二箇所ともが地下にあった。
なら下へ通じる通路がある筈だと思ったのに、最初に見た地図には地下が無かった。
『…オレの思い過ごしなのかな…』
まだ二箇所しか行ってないのだから、偶には違うこともあるのだろうと思い黙って歩き続けた。
「最初の部屋です」
急に広くなった空間。
それは遺跡、と言うよりまるで近代的な文明だった。
後から持ち込んだと思われる機械が並び、なんとも異質な雰囲気を漂わせる。
「うわ…遺跡だろ此処…。なんかの秘密基地みてえ…」
「確かに…。旧暦時代の機械なんかじゃねえし…。どうイジっていいのかわかりゃしねえなあ」
ジェイが機械の一つに触れる。
すると宙にスクリーンが映し出された。
「詳しい地図を出します。皆さん頭に叩き込んでください」
「ジェイすごいなー!これ使えるか?!」
「忍たる者、情報収集が主ですから。コレ位扱いは知ってます」
そして映された映像、赤く光っている所が現在地。
そして一番奥の部屋より二つ手前の部屋に最初に見た地図には書かれていなかった通路があった。
その先の部屋は青く光っている。
「青く点滅している此処、住民達は此処でしょう」
「結構奥だなあ…。あれ?あの二つ光ってる黄色い点は?」
青く点滅している部屋へ続く通路と、一番奥へ続く通路に一つずつ黄色い点があった。
「…此処だけパスワード解除のロックが遠距離式になってますね…。この奥に通じる方でないと解除出来ないみたいです」
「つまり、あっちの道で解除してこっちへ移動すればいいのか?」
「……二手に分かれるか。住民達を先に避難させておいた方が良いだろ」
ロニがそう提案した。
ジェイも反対することなくそうですね、と了承。
手早く移動を行う為にも此処で班を二つに分けておくことにした。
「、お前決めろよ」
「え!?オレ!?」
「…そうだな。お前一番奥へ行かなきゃなんねえし。お前がメンバー決めれば残りは必然的に救助班になる」
スパーダとロニの両方に言われ、全員の目が一斉にに向く。
確かにはこの遺跡の奥まで進まなければならない。よって、探索班。これは自然な流れだ。
「救助班は…三人で良いですかね。危険なのは探索班でしょうし」
「じゃあ…が後三人選べばいい…」
じっと見つめてくる全員。
何故かその目は何かを訴えているように見えた。
“自分を連れて行け”と。
「(選びにくい…)じゃあ、ジェイとメルディとアリエッタで」
「光栄です。僕も奥に何があるのか興味ありますし」
「ワイール♪任せてな」
「頑張る…です」
「えー!ウチも行きたいー!」
「なんで俺選ばねえんだよ!!」
「まあまあ。で、。この選出の理由は?」
喜ぶメンバーに文句を言い出すメンバーと半々に分かれる。
まあ、こうなると予想は大体ついていたが。
「だって町の人達を助ける班は人数が少ないだろ?だから素早い対応が出来る前衛組で固めた方が良いと思ったんだよ。
それにロニがいるから回復や魔術もあるし」
どうやら先に救助班を考え、残りのメンバーを探索班に回したらしい。
なりに効率を考えた結果のチーム分けのようだ。
「流石さんですね。それにエルマーナさん、スパーダさん。救助班を任されたと言うことはさんの信頼を受けていると言う事ですよ?
それなのに、文句があるんですか?」
「「……信頼…」」
どうやら納得言ったようだ。
ジェイの上手い口車にあっさりと乗せられた二人だった。
「じゃあ次の部屋へ行きましょうか。最初の部屋のパスワードは…」
《パスワードヲ入力セヨ。34529×59817ノ答エハ?》
「「「「「「………」」」」」」
さっと固まる・ロニ・スパーダ・メルディ・エルマーナ・アリエッタ。
各々がどうにかこうにか計算しようと慌てているとジェイがさっと入力した。
「おい、間違えたら罠が――――」
《2065421193》
ガゴンっと重い音がし、扉が開いた。
六人が絶句する。
「どうしました?行きますよ」
「……なんであんな短時間で計算出来んねん…」
「誰でも出来ますよあれ位」
「出来ねえよ…」
残りのパスワードも計算問題かもしれないと思うと足取りが重くなった六人だった…。