ジェイの案内の元、無事迷いの森を抜ける事に成功した一行。
真っ直ぐと辿り着いたスラクタウン。
しかし、そこは絶望の町となっていた―――…。
「…な、何があったんだ?」
町の中の建物は無事なものの方が少なく、廃墟と化しているものの方が多かった。
井戸や噴水の水は枯れ果て、草木も殆どが枯れている。
人の姿も見えず、最早ゴーストタウンとなっていた。
「…おかしいですね。前の調査ではまだ人がいた筈…。皆さん、手分けして住民を捜しましょう」
「そうだな。その人に話を聞いてみよう!」
四人は互いに分れ、町中へと散らばった。
は瓦礫を持ち上げ、家の中に入ってみる。
其処には子供がいたのだろうか、ぬいぐるみが落ちていた。
一体この町に何があったのだろうか、生存者は最早いないのだろうかと不安がよぎった。
「……っ」
「…ん?」
何処からか話し声のようなものが聞こえた。
とても小さなもので聞き逃してしまいそうだが、確かに聞こえる。
その声を頼りに歩いていると家の裏手に出てしまった。
気のせいか、と辺りを見回してみると上手く草で隠された場所に作られたシェルターがあった。
そっと耳を押し当ててみるとその中から声らしきものが聞こえた。
はそっと取っ手を握り、持ち上げてみた。
「…誰かいるのかー?」
しかし返事はない。
もしかしたら、警戒されているのかもしれない。
「オレはイクセンから来たアドリビトムのだ。この町の人達を助けに来た!」
やはり返事は無い。
だが奥でごそっと物音がした。
「…ミュウ、ちょっと中を照らしてくれるか?」
「はいですの!」
ミュウに炎を吐いてもらい、シェルター内を明るくする。
ゆっくりと下に降りてみると、ちょこんと小さな影がひとつ。
「……?」
「…くくくくく…くぃっきー!」
「わあ!!」
がばりと顔面に飛びつかれ、は倒れる。
呼吸が苦しくなり、急いで剥がすとそれは見たことの無い生き物。
耳と尾が長く、青い毛並みの小動物。
「…ミュウ、通訳」
「はいですの!みゅみゅみゅみゅう?」
「くくくぃっきー。きー?」
動物同士で会話が繰り広げられる。
どうやら結構話が弾んでいるようだが、何を言っているかはこちらにはさっぱりわからない。
ひと段落したのかミュウが此方に戻ってきた。
「さんが敵じゃないってわかってくれたですのー。この奥に数人町の人が隠れてるそうですの」
「そか、良かった。じゃあ、案内してくれるか?」
「くぃっきー!」
「この人はクイッキーさんと言うですの」
「クイッキー?(…まんまだな)じゃあクイッキー、行こうか」
クイッキーはの腕をつたって肩に乗ると尾で奥を指した。
中は結構な空洞になっており、案内無しでは辿り着けなさそうだ。
クイッキーの指すがままに歩いていくと、灯が見えてきた。
「人…?」
「バイバ!クイッキーが一緒に来てるよぉ!」
「…ってことは敵やないゆーこっちゃな!」
奥に居たのは少女が三人。
が肩にクイッキーを乗せていることから敵ではないと判断してくれたらしい。
そして一人の少女がはっとした表情をした。
「それ…アリエッタの…」
「あ、これ?」
それとは、が家で見つけたぬいぐるみ。
そのまま持ってきてしまっていたのだ。
「これ、君のだったんだな。はい」
「……あ、ありがとう、です…」
は視線を合わせるように座り、少女に差し出す。
少女は受け取るとぎゅっと愛おしそうに抱き締めた。
「オレはイクセンから来たアドリビトムの。皆はこの町の人?」
「ミュウですの!」
「そや、ウチはエルマーナ・ラルモ。エルって呼んでや」
「メルディはメルディ言うな♪、いい人。クィッキーが懐くが証拠♪」
「……アリエッタ…です」
ショートカットの活発そうな少女がエルマーナ。
ツインテールの独特な喋り方をするのがメルディ。
センター分けのロングヘアで、ぬいぐるみをぎゅっと抱えたのがアリエッタ。
一番しっかりしてそうなエルが一番年下だと聞いた時はびっくりした。
「ところでこの町は何があったんだ?もしかして、町の行方不明者となんか関係ある?」
「大有りやで〜!あんな、この町の兄ちゃんが数人おらんくなった後、なんや知らんけどごっつデカイおっさんが来てな」
「町壊していったよ。“反抗するからこうなるのだ、ブワハハハハ”とか言ってたな」
「……あの人、怖かったです。…仲間いっぱい連れて…町…襲った」
泣きそうになるアリエッタ。
そっと頭に手を置き、落ち着かせるようにゆっくり撫でる。
アリエッタは一瞬目を見開いたが、その手が気持ち良かったのか目を細めて擦り寄る。
「…の手…あったかいです」
「そ?」
「兄ちゃんずるいわ〜!ウチも怖かったんやで?」
「メルディも!!」
アリエッタばかり構っているのが気に入らなかったのか他の二人も騒ぎ出す。
なんだか妹が出来たみたいだ、とはちょっと嬉しくなった。
「それじゃあ皆一旦外に出よ?上にオレの仲間がいるから」
「なんなんだこいつら!!」
「…残党ですかね…。もしかしたらこの町の人達はこいつらに…」
「ちっ!邪魔くせえなあ!!」
ロニ・ジェイ・スパーダは地上にて、敵と遭遇していた。
彼らが上で住民を捜している時、人の気配がした方向へ行くと何かを捜している男達。
三人の姿を見るなり襲い掛かってきたのだ。
「まだ生き残りがいたとはな…」
「お前ら、大人しく投降するか…死かどちらか選ぶんだな!!」
各々手には武器を持っている。
皆が仮面をはめているところを見るとこいつらは何処かの組織に属しているようだ。
「投降か死?何をふざけたことを。……それは貴方方の方ですよ」
ジェイは持ち前の素早さで敵の後ろに回りこんだ。
「雷電!!」
「うがあああああ!!」
地に苦無を刺し、其処から電撃を発生させる。
電撃は男の体を駆け回り、動きを封じた。
「…!こいつら只者じゃねえ」
「余所見は厳禁だぜ…っと、空破特攻弾!!」
今度はロニが斧を構えて敵に突撃した。
男達は陣形が崩され、慌てふためきだす。
「へへん逃がさねえよ!!真空千裂破!!」
突き攻撃の後の回転斬り、逃げようとした敵の背にヒットする。
完全勝利にぐっと拳を上げたスパーダとロニだったが、ジェイの溜息に空気を変えられる。
「全員倒してどうするんですか…。話を聞こうと思ったのに」
「「あ」」
「わあああああ!」
「「「!」」」
声が上がった方を見ると、男たちと同じ格好の奴がもう一人。
仲間が全員やられたのだと知ると一目散に逃げ出した。
「まだいやがった!!!」
「確実に捕まえますよ!」
「待ちやがれ!!!」
三人が追いかけだすが、その男の逃げ足は速く、しかも瓦礫が邪魔で中々追いつけない。
逃げられる!と思った矢先、前方に人影が現れた。
「…!!女の子!」
「危ない!」
「逃げろ!!」
男は少女に剣を向ける。
あわよくば人質にと思ったのだろう。
少女はすっと右腕を上げる。
「リミテッド!!!!」
「ぎゃああああああ!!」
光の柱が男に直撃した。
だが、倒れるには至らなかった様子で再び少女に襲い掛かろうとした。
「ミュウアターック!!!」
「あたーっく!!!」
ごん!
力強い音がし、男は倒れた。
音の正体は、頭にクリティカルヒットしたミュウ。
「危ない危ないっと…。アリエッタ、大丈夫?」
「…うん、だいじょぶです」
続いて現れたのはだった。
三人を見つけると、手を振りながら寄って行く。
「やー三人共。…これ、誰?」
「…解らず倒したのかよ」
「まあ、結果オーライだな…」
「さん、その子達どっから見つけてきたんです?」
三者三様の反応を見せ、取り合えず結果報告をし合うことにした。
「この三人はこの町の子。左からメルディ、エルマーナ、アリエッタね。地下シェルターがあって、其処に隠れてた」
「成程。あ、この男はこの町を襲った奴等の仲間みたいです。起きたら情報を聞き出しましょう」
「いたのはその子達だけか…。他の人達は何処へ行ったんだろうなあ…」
「…なあ、ところでよお。なんでそんなには懐かれてんだ?」
スパーダが言うのは、少女三人が三人共にくっついて離れないという事。
メルディとアリエッタはの左右に、エルマーナに至ってはの組んだ足の上に座っている。
「兄ちゃん、優しいからなー。一緒におると落ち着くねん」
「メルディもー♪」
「……(ぎゅ)」
「妹が出来たみたいでオレは嬉しいんだけどね」
「……あ、そ(何処行ってもモテる奴…)」
その時、場違いな音が鳴った。
ピロリ〜ララ〜ピロリラリラ〜
『『『なんだ今のメロディ……!!!!!』』』
「あ、もしかしてコレか?」
が懐から取り出したのは、この間の一件でホーリークレスト軍から支給された譜業機械。
青いボタンを押すと音が鳴り止み、画面に映像が映った。
「大佐!?」
『やあお元気ですかー』
画面に映ったのはジェイド。
ついこないだまで顔を合わせていたのに、不思議と懐かしかった。
『おやおや、随分とモテてますねえ。何があったんですか?』
「今スラクタウンにいるんだ。だけど、この町どうやら襲われたらしいんだよ」
『…詳しく話してください』
はこの町で発見したことや、エル達に聞いたことを全部話した。
『成程…どうやら相手側も実力行使に出始めたのかもしれませんね…。、其処には貴方以外に誰が一緒に来ましたか?』
「えっとスパーダとイクセンのアドリビトムのロニと暁の里のジェイ」
『暁の里…。その方に代わってもらえます?』
「うん。ジェイ、大佐がジェイにって」
から譜業を受け取るジェイ。
独自の情報網を持つ彼は勿論ジェイドのことは知っている。
「ホーリークレストの大佐殿が僕に何か?」
『いやあ、警戒心丸出しですねえ。いえ、少し注意点を言っておこうと思いまして。あ、少し皆さんと距離を置いてください』
「注意点…?」
冗談交じりの話し方だったジェイドの表情が引き締まる。
それにつられて、ジェイも眉間を寄せる。
そして達から離れるように瓦礫の影へ移動する。
『遺跡に入ったら…必ずを一人にしないでください。彼はまだ迷いがあります』
「…何故それを僕に?他の二人ではなく」
そうジェイは他の二人より出会って日が浅い。
旅を共にしてきたスパーダや同郷のロニならまだしもだ。
『一番、冷静そうでしたから。暁の里の者は感情で行動しないでしょう?』
「……解りましたよ。心がけます」
『話の早い方で良かったです。ではに』
「さん」
皆の所へ戻り、ジェイはに譜業を返す。
最後二言三言挨拶を交わすとは通信を切った。
「大佐なんだって?」
「遺跡の事何かわかったら連絡忘れずにだって」
「達…遺跡…行くですか?」
アリエッタがの袖を引いた。
「ああ。この町の人を助けに行かなきゃ。それに調べることもあるしさ」
「…アリエッタも行く」
「ウチも!!兄ちゃんら行ってしもうたらまた三人だけになるやん!」
「メルディも行くよー!メルディもお手伝いする!」
三人が盛り上がってしまい、はどうしようかと視線で三人に訴える。
勿論危ないのは解っているから駄目だ、とはっきり言いたい。
だが此処に三人を残しておくのもまた危ない。
またあいつらのように戻ってくる奴がいないとも限らないのだ。
「ウチらも戦えるし、足手まといにはならへん!!なあ、ええやろ?」
「でもなあ〜……」
「まあ、三人だけを此処に残すのも危険ですしね。いいんじゃないですか?」
「ジェイ?!」
「幸い、皆さん戦う術は持っているみたいですし。僕らじゃあ前衛しかいませんしね、後ろでサポートしてもらいましょう」
「流石!話解るなあジェイ兄ちゃん!」
何を言ったところでロニやスパーダはジェイには口では勝てない。
それに少女達が喜んでいるのに反対するのも大人気ないのでは、と彼等も了承。
に至っては、まあいいかと呑気に考えている。
「それでは、内部のことを吐いてもらう為にもこの人に起きてもらいましょうか」