旅は順調な好スタートを切った。
……切った筈だった。










「ここはどーこーだぁああ!!!」

「やっぱりこうなるんだよな…。ああ…明るい日が見たい…」

「二人共、少し落ち着きなって。ちょこっと、方向がわかんなくなっただけじゃん」


「「それが問題なんだよ!!!」」












そう、現在迷いの森を歩いていた三人は案の定迷っていた。

最初は真っ直ぐ突き抜ければ抜けるであろうと思っていたのだが、やはり同じ景色ばかりと言うのは人の方向感覚を狂わせるらしい。
戦闘をしていればどっちから来たか判らなくなり、しかも昼間でも日が差さないこの森は視界が暗く……今に至る。







「まあ動き回っても仕方ねえ。最悪此処で野宿だな」
「此処でかぁ!?それすっげえ危険じゃねえか!!」
「仕方ねえだろ!昼間の内に出られなかったらそうなるんだよ!」



どちらの言い分も正しいだけに、互いに一歩も引かない。
確かにこのまま出られなかったら夜の森を歩くことになるし、だからと言って迷いの森で一夜を明かすのは言語道断だ。
は口を挟むことが出来ず、オロオロと二人を見ていた。


その時目の前にふんわりと小さな光が横切った。


「…?なんだあれ」
「みゅ?」



は今だ言い争いを続ける二人を横目に、光の後を追っていった。





















あまり離れてはいけないと思いつつも、フラフラと光を追ってしまう。
その光は一定の距離をとりながらの前を飛ぶ。


「みゅ〜、さん…あまりロニさん達から離れちゃ駄目ですの〜」
「え?あ、やべ…」


振り返ると暗い道。
戻らなきゃ、と思いつつも光だけを見て歩いてきた所為で何処から来たか判らない。



「…しまった」
「みゅ〜…はぐれちゃったですの…」



二人の怒鳴り声も全然聞こえない。
結構離れてしまったようだ。







「やっべ…どうしよう…」






ギャアギャア





不気味な鳥の鳴き声が聞こえ、ビクリと肩を震わせるとミュウ。
はミュウを抱き抱え、少し足早に歩き出した。



「ロニ〜…スパーダ〜…」


呼んでも反応無し。
本当に迷った、しかも一人だ。

これはマズイとは辺りをキョロキョロと見回し、少し背の高い樹を見つけた。




上からなら何か見えるかもしれない……。




そう思ったは樹によじ登ることにした。











「…ん、しょっと」



結構背の高い樹だったので、途中の枝で断念した。
それでも2m位はあったので、結構周りを見渡せる。

そして、運の良い事に何か灯を見つけた。
色から見て、炎のようだ。
恐らく、ロニ達のものだと思って間違いないだろう。




目印は見つけたものの、このまま樹から降りればまた見失いかねない。
じゃあこのまま行けば良いか、とは枝から枝へ飛び移ることにした。




視界は悪い中、結構ひょいひょいと渡っていく
元々小柄な体が労して、身軽な為コレ位は楽勝。
だが、途中乗った枝が細すぎた為の体重を支えきれなかった。



「わっ!!」
さん!!」





落ちる、と思った瞬間はふわりと浮遊感を得た。





「頑張るですの〜〜〜〜」
「おお!ミュウすげえ!!」



ミュウがの腕を支えた状態で飛んでいる。
だがあまり長くもちそうにない為、急ぎ近くの枝に乗る。




「ごめんな、大丈夫か?」
「大丈夫ですの!
みゅっ?!



急に声を荒げたミュウ。
の上を見て驚いている。


が振り返るとそこには何もない。





「なんだよ、いきなり」

「い、今…今…」

「?本当にどしたんだミュウ……
!!!?



今度はが驚く番だ。

いきなり感じた鋭い殺気。


ミュウを抱え込み、枝を飛び移った。

その瞬間、今までいた場所に数本の小刀が刺さったのだ。





「…!!」
「みゅみゅ〜!!なんですの!?なんなんですの!?」
「敵…?……!!この小刀!!…あの時、クヴァルに刺さったやつ



小さなナイフ、とはまた違う独特の形状をした刃物。
それはついこの間、達の危機を救ったものと同じものだった。

だが現在は敵として認識されているのか、先程からこの小刀が自分達のいる場所にばかり飛んでくる。









「オレは、イクセンから来たアドリビトムだ!!オレを狙うお前は誰だ!!」







の叫びが聞こえたのか、一旦攻撃は止んだ。
意外と近くにいたらしく、今の声でロニ達も合流した。



!!お前何処行ってたんだ!?」
「しかも樹の上で…ほら、降りて来い」


「二人共!……今、近くに誰かがいるんだ」



「「!!」」



それを聞いて二人も身構える。
は素早く飛び降り、三角形の陣形を組む。

この暗闇の中、相手は此方の様子が見えるらしく油断ならない。
それに反して達は夜目が利かない為、神経を集中していないといきなりグサっとやられるかもしれない。














「イクセンのアドリビトム……?」



声が聞こえた。








「そうだ!オレ達はスラクタウンへ向かう途中だ。お前は何者だ!何故オレを狙った?!」




の声が森に響き渡る。
今だ相手は姿を見せない。

だが攻撃が来る気配は無い。





「!!あそこだ!
デルタレイ!!



ロニの光の魔術が暗い樹の上を狙う。
ガサガサっと大きい何かが動く音がした。


足場を崩したのか、その人物が飛び降りてきた。









「お…女の子?!」





ロニが驚きの声を上げる。

現れたのはまだ年端もゆかない少女。
だがとても強気な瞳でこちらを見据える。




「アドリビトムの方々とは知らず失礼致しました。…この森からは我等の里へ通じる為侵入者ならば排除せねばならなかったのです」



礼儀正しい言葉に警戒を緩める三人。
少女は見たところ、まだ12,13くらいだろうか。
長いポニーテールをなびかせ、凛と立っている。




「わたしもアドリビトムです。藤林 すずと申します」
「オレは。こっちの背が高いのがロニで帽子を被ってるのがスパーダだよ」
さん…貴方は忍の才能があります。あの身のこなしは見事でした」
「え、そう?ありがと」



敵じゃないと認識してから、すずは穏やかに接してくれた。
現在迷っている事を話すとじゃあ自分の里へ案内すると申し出てくれたのだ。



「でも…俺達が入ってもいいのか?見た所余所者は受け付けないようにしているんだろう?」
「大丈夫です。元より、アドリビトムの方が来る事は聞いておりました」




誰に?


そう疑問に思ったが、取り合えずすずについて行くしかなかった。

























「ここです」


ようやく明るい場所に出れた…とまだ光に慣れていない目を瞬かせるとそこは独自の文化を持つ場所だった。
建物や服、装飾など全てが珍しかった。


「此処が…すずの里?」
「はい。外からは“暁の里”と呼ばれております」
「暁の里!?此処がそうだったのか!」


ロニが声を荒げると辺りの視線が集中した気がした。
いたたまれなくなったのか、ロニは慌てて口を押さえる。



「そっか、それなら納得。クエストに暁の里に使者を迎えにってあったもんなー」
「いえ、今回の件はそれとは別だと思います。わたしが聞いていたのは―――」














「ああ、ようやく来たんですね」














前方から歩いてきたのは少年。
髪の毛を左上の方で一つにまとめており、だぼっとした衣服に身を包んでいる。
まったく日に焼けてないのか、その肌はとても色白く、少し中性的な顔立ちだった。




「……その声……」




『僕のことならいずれ判ります』



エヴァで出会い、顔も見せずにに手紙を渡してきた人物と同じ声。





「…!!エヴァで会った人!」
「おや、覚えていてくださって光栄です。中々記憶力がある方ですね。そちらの人とは違って」


少年が出てきても反応しなかったスパーダに向けられた嫌味。
自分のことと解った途端暴れようとしたスパーダをロニは急いで押さえる。



「いずれ、判るってこういうことだったんだ」

「ええ。あの手紙を渡せば恐らく貴方が来るだろうと思ってましたから」

「オレのこと…アドリビトムだって知ってたってことは、あの時助けてくれたのは君だね?」

「情報収集は得意分野ですから♪それに、僕は偶々苦無を落としただけです」





少年は振り返るとついて来るよう促した。



「外で立ち話もなんですし…、頭領の家にでも行きましょう。ああ、それと自己紹介が遅れました。
 

 僕はジェイと言います」



「オレは。よろしく、ジェイ」

「ええ、よろしくお願いします。…色々とね」


意味深な挨拶を交わし、頭領の家へと向かった。