今回の働きが王の耳に届いたらしく、達は城へ呼び出された。
初めて王宮というものに入るは謁見室でどうしたらいいかわからず、そわそわと落ち着かなかった。



「おい、少しは落ち着けって」
「無理だよ…なんか此処すっげえしーんとしてるしさあ…。てかなんでスパーダはそんな落ち着いてるのさ」
「お前見てたら力抜けるんだよ。ほら、来たぜ」



王座に着く、まだ若い王。
それと隣の席に座るのは街で会ったナタリア。
ナタリアはの姿を見つけると嬉しそうに顔を綻ばせた。



「まあ、!!無事でしたのね!」
「こらこら落ち着かないか、ナタリア。君達が今回の功労者だね。此度は我が街を救ってくれて感謝する」



若いが、王としての風格やカリスマ性を充分に備えていることは醸し出される雰囲気から伝わった。



「私はこのエヴァを治める四代目国王、ウッドロウ。妹のナタリアから話は聞いていたが……くんと言ったかな?」
「は、はい!!」


急に名指しされ、少し声が上ずった。
クスクスと笑い声が聞こえる。




「成程…真っ直ぐな良い瞳だ。君達のお陰で国は正しい方向へと戻ることが出来た。本当にありがとう」
「いえ…オレは友達を助けたかっただけですから」



チラッとリオンの方を向くとそっぽを向いているが、隣のジェイドがそっと指す。
リオンの耳が赤い。



、その“友達”の中に私も入っていますわよね?」
「勿論。ナタリアが良いなら」
「嬉しいですわ」


にこにこと笑い合う二人。

話題を変えるようにジェイドが切り出す。



「ところで国王陛下。体調不良の原因は判明しましたか?」
「ああ、内部にクヴァルと通じている奴がいたんだ。医師もグルだったそうだ」
「少量ずつ毒物を摂取させられていたんでしょうね…。それでは気付かない筈だ」
「君やリオンくんが調べてくれたお陰で大事には至らなかったがね」








ウッドロウは側近に合図を出した。

すると達の前に金色に輝くメダルを持ってきた。



「今回の働きを賞して君達に勲章を贈らせてくれ」
「今後のことは私達に任せてくださいな。エヴァを前よりもっとすばらしい街にしてみせますわ」





























「勲章、貰っちゃったな」
「なんか…すごいねー」



シャーリィとは互いに勲章を持って笑い合う。
あまり興味無いと言いたげなスパーダはさっさとそれを仕舞いこんだ。



「それよか、この街に来た目的果たそうぜ。、お前軍に呼ばれたんだろ?」
「あ、そうだった!それなんだけど」











今回の騒動の一件で、ホーリークレスト軍はしばらくバタバタするらしい。
なので、アドリビトムの仕事にしばらく携われないとのことだ。
一応、はジェイドに今回までのことを報告はしておいた。

そしてある物を渡された。




「…なんだ、これ」
「譜業って言うらしいよ。これで映像を送ったり話が出来たりするらしい」



レンズが内蔵されており、画像を撮ったり通話が出来る手の平サイズの機械。
この手の研究はホーリークレスト軍でしか行われてないらしく、繋がるのも此処のみだ。



「変わったものがあったらこれで知らせろって」
「…お前、思いっきり使われてねーか?」
「まあ、でもどっちにしろオレが一番関わるだろうしね」




は軽く伸びをし、深呼吸をした。
空を見上げ、ふとロイド達のことを思い出す。



「…オレ、一回イクセンに帰ろうかな…」
「どした?ホームシックか?」
「みたいなもん♪スパーダはどうする?一緒に行く?」
「そーだなあ…どうせ行くアテもねーし」



「だったら船出してやるよ。イクセンならエルグレア経由で行けるしな」
「え?セネル船持ってるのか?」
「マリントルーパーなら仕事でしょっちゅう使うからな」
「それならもう少し一緒にいられるね♪」




一度イクセンへ戻って、いろんなことを報告したい。
エヴァまでの道程や、此処での戦い。出逢った人々。

オレの家は、あそこだから。






















「ちょっと待ってもらえます?」






「?」












誰の声でもない、少年の声が達の足を止めた。
振り返るとフードを被った、背丈はシャーリィ位の人。



「貴方、イクセンのアドリビトムなんですか?」



貴方、と呼ばれたのは
先程の会話を聞いてたのか?と、言われるがままに頷くとフードの少年は顎に手を当て何かを考える素振りをした。




「…だったら、この手紙をイクセンのリーダーに渡してください。暁、と言えば解りますから」
「え…あ、解った。絶対渡すよ。ところで君は…」
「僕のことならいずれ判ります。それでは」




が手紙を受け取ったのを確認すると、さっさといなくなってしまった。
顔も見せずにあの態度はなんだ!とスパーダは怒っていたが、は首を傾げた。









『貴方、イクセンのアドリビトムなんですか?』








イクセンに帰るとは言ったけど…アドリビトムとはオレ一言も言ってない。
さっきの問いかけは、アドリビトムなのかと言う事よりイクセンの、と場所に重点を置いていた気がする。


何故、彼はオレをアドリビトムと知っていたのだろう?


彼は一体誰なんだろう?



























セネルの船で海路を行くお陰で、行きより大分時間短縮出来た。
海上でも魔物は出るが、四人もいれば戦闘に苦戦を強いられることもなかった。




エルグレアに一旦寄り、シャーリィを送り届け、イオンに報告を済ませた。

イクセンは森の近くの町なので行ける所まで送ってもらい、そこでセネルと別れた。










「ありがとう、色々と助かったよ」

「いや、こっちこそ。お前らと出逢えて良かったよ」

「元気でなっ!」



固い握手を交わし、船が見えなくなるまでセネルを見送る。
彼は仕事で色んな港を回っていると言っていた。
再会する日もそうそう遠くないだろう。





「じゃ、行こうぜ」
「おう。…ってこっからどんくらい歩くんだ?」
「まあ、此処からなら――…半日かな」
「…マジで…?」






























「着いた――…大丈夫?スパーダ」
「おお…ようやくか…」



半日、流石にそれ程は歩かなかったが四時間は歩いた。
何も無い真っ直ぐな道ならまだしも森を抜けた為時間がかかったのだ。



は久々に帰るイクセンに少し緊張したが、懐かしい雰囲気にすぐリラックス出来た。
何処へ行ったら皆いるだろう、まず誰に会えるだろうと考えていると手紙のことを思い出した。





「そうだ…これ渡さないと」



謎の少年から預かった手紙。
リーダーに渡せと言っていたからクラースに渡さなくてはいけない。


すると一番最初に行くのはギルドだ。





















「クラースさん!!」
!?」



驚いた顔で出迎えたのはイクセンのリーダー・クラース。
まさかの来訪者に目を白黒させている。



「どしたの、固まっちゃって」
「…いや、急だったからな。…おかえり、
「ただいま!」




挨拶を済ませるとはあの手紙を差し出した。
宛名も差出人も書かれていない手紙にクラースは首を傾げたが、“暁”と言う言葉を聞いた瞬間目の色を変えて手紙の封を切った。

段々クラースの眉間に皺が寄る。
あまり良くないことが書かれていたのだろうか、の心に不安がよぎる。



「…折角、帰ってきたのにな」
「え?」
「あ、いやなんでもない。そうだ、ロイド達には会ったか?あいつ等宿屋にいるぞ」
「本当?!じゃあ行って来る!行こうスパーダ!!」




はスパーダを連れ、ギルドを出て行った。
扉が閉まったのを確認し、クラースは溜息をつく。



「…どうしてこうも…あの子が必要になる…」










手紙が風で床へ飛ばされた。




文面には












“スラクタウン東に遺跡を発見。確認に向かったアドリビトムと村の若者数名が行方不明。至急増員要請”






























宿屋の扉が勢い良く開かれる。
その音に中でカードゲームをしていたロイドやシンク、ノーマが振り返った。
そして思わず、手に持っていたカードを落とした。





「…っただいま…!」

「……っあ」
ぴょんじゃ〜ん!!おかえり〜〜!!」



ノーマがまず我先にと駆け寄り、出遅れてしまったロイドとシンクも慌てて駆け寄る。


、帰ってたのかよ!!連絡すれば出迎えの準備したのに!」
「驚かせようと思ってね!あ、そうそう皆に紹介するよ。旅の途中で出逢ったスパーダ!」
「…ども…」


あまりのの歓迎されっぷりにスパーダは居心地が少し悪かった。
紹介されてしまえばロイドやノーマは気さくに話しかけてくれたが、約一名は違った。




シンクだ。





「…、アンタそこらで会った人間と旅してんの?大丈夫なわけ?」
「どーいう意味だこら…!」


スパーダは瞬時に悟った。


シンクは、リオン属性だと。




















「お〜、帰ってたのか!!」
「ロニ!マリーさん!!」
「こりゃ今日はご馳走だね。腕の揮い甲斐があるよ」


久々の再会で弾む会話、耐えない笑顔。
何よりの休息だ。





































お帰り会が遅くまであった所為で数人寝坊した。
比較的早く起きたシンクがロイドとノーマを叩き起こしに宿屋を訪ねると、の部屋の戸が数cm開いていた。
中には熟睡しているスパーダと、きっちり直されているベッド。



がいないのだ。



シンクは起きてからロニとマリーにしか会っていない。
なら、彼はいつの間にいなくなったのか。
そして何処へ行ったのか。




布団に触れてみると温もりはもう無い。
結構前に出て行ったことが判る。

同室のスパーダの熟睡加減を見れば、が出て行ったことには確実に気付いていないだろう。
だが、呑気に寝ている彼になんだかムカつきシンクはベッドを蹴飛ばした。


急な衝撃に驚いたスパーダはそのままベッドから転落した。



だっ!!……なんだ…?地震か…?」

「何寝惚けたこと言ってるのさ。アンタ、がいないってのによく寝てられるね」
が…?…!!!は?!」
「だからいないって言ってるだろ。僕だって知らないよ。今気付いたんだし」



シンクはさっさと部屋を出て行く。
スパーダも急いで着替えを済まし、後を追いかける。





今は大体朝の十時位。
そんなに早い時間でもない。


何処かへ行っても不自然ではない時間だが、彼が誰にも告げず出かけたことが今までで初めてだった。




「何処行っちまったんだ?アイツ」
「クエストにでも行ってるならまだ良いけど……」




シンクは内心焦っていた。






いきなり現れた


なら




いきなりいなくなることも有り得なくない。







そんな考えが頭をよぎって離れない。







足を急がせ、ギルドへ向かった。




























「リーダー!…知らない?」
「…?いや、来てないぞ。宿にいなかったのか?」
「いないから聞いてるんだよ。リーダーが知らないならクエストじゃないのか…ちっ」



シンクは踵を返し、ギルドを出て行こうとする。
しかしそれは入ってきたロニに阻まれた。



「おっと、どうしたよシンク。そんなに慌てて」
「…ロニ。…がいないんだ」
が?スパーダ、お前同室だったんだろ?」
「アイツ俺に何も言わずに行ったんだよ」




ロニは腕組みをし、考える。
イクセンの近くでが一人で行く場所、それも誰にも告げずにだ。
そんな場所と言ったら……






「あ」

「ん?」

「っ!!…まさか」





ロニ・クラース・シンクが同時に思い立った。
そう、このイクセンでが“ディセンダー”だと知っているのはこの三人だけ。

そしてこのイクセンの傍にある、マナに縁ある土地。





「多分…あそこだな」
「まあ近いし、魔物もそう強くないものばかりだ。問題無いだろう」
「行くなら一言言ってけば良いのに…。あーあ、歩き回って馬鹿みたい」


「?お、おい。結局は何処にいるんだよ?」



スパーダだけが一人取り残されたように何もわからない。
三人は窓から見える大樹を指差した。






「多分ユグドラシルの森にはいるんだ」



























「…マーテル…ただいま」



大樹に寄り添うように立つ少年。
彼は此処で生まれた。


マナを生み出す大樹ユグドラシル、今は少し穢れを吸ってしまっているけれど。
聖域の中のびのびと空へ枝を伸ばすその姿は何よりも雄大だ。



寄りかかり座り込むと今までの旅の話をした。
一見一人で話しているようにしか見えないが、此処には“彼女”がいる。

彼を生み出した、女神が。






聖域の清らかな空気の中にいれば、溜まっていた疲れが全て消える気がした。
心地良さに身を委ねれば、自分の中にマナが溜まっていく。



本当の意味での休息をようやく得られたのだ。