私達は二手に分れ、レバーを解除しに行ったのですが…やっぱりリオンさんとスパーダさんが揉めてしまい苦労しました。
それでも最後には二人共息が合ってきたのか、すごいサクサクと進みました。ホッとしました。


一刻も早くあちらと合流しなければ、と足を急がせていれば集合場所でさん達の姿が見えてきました。
あっちは難なく解除に成功したんだろうなー…。











「お兄ちゃん!さん!!」
「シャーリィ!!」



お兄ちゃんがこっちに駆け寄って来てくれた。
よかった、お兄ちゃんも無事みたい。





「「!!?」」






荒げた声はリオンさんとスパーダさんのもの。
何事かと見れば、さんが赤い目元で笑っていた。



「お兄ちゃん…何かあったの?」
「ああ。大丈夫、別に嫌なことがあったわけじゃないから」


お兄ちゃんの表情も晴れやかなもの。
ということはさんは悲しいことがあって泣いたわけじゃないのね。
でも、何があったのかな?












「さて、それでは進みましょうか。油断しないでくださいね。恐らく…待ち受けているのはクヴァルだけではありません」



ジェイドさんの言葉に皆の顔が引き締まる。
確かにこのドアの向こうから感じるプレッシャー…凄く強い人がいるみたい。

そして、私達とは対照的にアトワイトさんの顔色が悪くなっていく。

さんが心配そうに声をかけに行った。



「どうしたの?アトワイトさん」
「…此処へ来るまで、一度もディムロスに会わなかった。彼は…恐らくこの先にいるのね…」



この先にいる、と言う事は私達の敵としてということ。

悲しさを秘めた、暗い表情。
アトワイトさんは苦しんでいるんだ。

きっとディムロスさんはアトワイトさんの――――…









「大丈夫」








その言葉に顔を上げたアトワイトさん。
発したのはさん。
笑顔を浮かべて、アトワイトさんの手を握った。



「きっと事情があるんだよ。話せば解ってくれる。オレ達がなんとかするから、ね?」
「……ありがとう……」





それはほんの気休め、慰めかもしれない。
だけど、彼女が望んでいた言葉だったと思う。

本当に安心したような顔をしていたから。















「さあ、皆行こう!!!」




重い扉が開かれる。






















私達が目指す部屋の扉の前には人影。
長い青い髪をなびかせ、剣を構えて立っている。
凛々しい瞳は私達を睨んでいる。




「やはりいましたか………ディムロス中尉」
「ディムロス……」


強い眼光に怯むことなく前へ出るジェイドさんとアトワイトさん。
ティアさんやリオンさんも武器から手を離さない。




「貴方方を此処から先へ行かせるわけにはいきません。…同じ軍人としての情けです。引き返してください」

「戦場での貴方は敵に情けをかけるような人じゃなかった筈だ。何故、そちらにいるのですか!?」
「リオン隊長、そんな口を利く権利はそちらには無いのだ。戻らないと言うのなら、敵と判断するだけだ」



今まで同じ場所で、共に戦ってきた人がこんな風に敵対してるんだもん。
ホーリークレスト軍の皆さんとってもやり辛そう……。









だけど、そんな中誰かが一歩前に出た。






「おい、アンタが何考えてんのかわかんねえけどよぉ。どっちが正しいかぐれえわかってんだろ?」


スパーダさんがリオンさんの前に立つ。



「アンタが何を背負っているかは知らない。だけど、本当に大切なものをそれで見失ってからじゃ遅いんだ!!!」


お兄ちゃんがティアさんの前に立つ。



「軍人じゃなくて、貴方個人としての考えを聞かせてください!」


私もアトワイトさんの前に立つ。






「オレはこの国の姫にも会った。人々の心が廃れて悲しいと彼女は言った。ディムロスさん、アンタはそれでいいのか!?」



さんがジェイドさんの前に立つ。







「君達には関係ない…。この国のことは…っっ!!!!




いきなり蹲るディムロスさん。
頭を抱えて、苦しそうに唸っている。


たまらず、アトワイトさんが駆け寄る。
だがディムロスさんはその手を跳ね除け、距離をおいた。






「…っあ……っく…侵入者は…排除…。シンニュウシャハ…ハイジョ…




私達を睨んでいた瞳が、生気を失っていく。
さっきまでただ持っているだけだった剣を一番近くにいたアトワイトさんに向けた。
アトワイトさんは悲しみに瞳を潤ませ、対処出来そうにない。






「少佐!!

堅固たる守り手の調べ……クロア リョ ズェ トゥエ リョ レィ ネゥ リョ ズェ…

フォースフィールド!!!

「ナイス、ティア!!真空破斬!!!



ティアさんの楯が発動し、さんがディムロスさんの剣を受け止めたお陰でアトワイトさんは無傷。
だけど、心に負った傷は深い。
アトワイトさんにこれ以上戦わせるわけにはいかない…。




「シャーリィ、アトワイトさんを連れて下がっててくれ!」
「わかった!気をつけてねお兄ちゃん!」




アトワイトさんの話じゃディムロスさんは将でありながらも前線部隊に必ず出ると言う程の実力者だと聞いた。
お兄ちゃんやさん、スパーダさんやリオンさんの四人がかりなのにも関わらずディムロスさんは軽々と受け止めている。


強すぎる……!!




「おかしいですねえ……。幾ら彼が強いと言っても、これ程の集団相手に息も切れないなんて有り得ません」



ジェイドさんの言葉通り、ディムロスさんはずっと動き回っているにも関わらず息一つ乱れずむしろどんどん強くなっていく気がする。
接近戦では埒が明かず、リオンさんとスパーダさんが下がって詠唱を始めた。
そこを見逃さなかったディムロスさんが駆け寄ってくるけどお兄ちゃんとさんが間に割り込む。




「ディムロス…さん!!!アンタどうしちゃったんだよ!!」

「おかしいぞ!!まるで操られてるみたいに……!!!」

「…操られて……?!」





「イラプション!!!」





魔術を発動させたのは、リオンさんでもスパーダさんでもジェイドさんでもない。

さんとお兄ちゃんの傍にいる、ディムロスさん。





「……っ!!」
「…うああああ!!」





避ける間も与えられず、直撃を喰らってしまった二人。
壁に叩きつけられた所為もあり、ダメージが深い。




「二人共!!……
ハートレスサークル!!!



ティアさんの回復術が二人を癒すが、それを待っていてくれるディムロスさんじゃなかった。
詠唱中のスパーダさん達に襲い掛かる。








「うお!!やべっ!!」

詠唱を遮られたスパーダさんがディムロスさんを押さえるが、その力の差は大きい。
あまり長くもちそうにない。


「そのまま押さえてろ、スパーダ!!!」



リオンさんの声が響いた。









ストーンウォール!!!!






大地の呪文が発動し、ディムロスさんの頭上から巨大な岩が落ちてくる。
回避する為一時スパーダさんから距離をおいたディムロスさんが行く先を見越してジェイドさんの魔術も発動した。





敵を蹴散らす激しき水塊……セイントバブル!!!



流石に着地を狙われたら避け切れなかったのか、見事にヒットした。
そこから隙を与えないように、回復したお兄ちゃんが飛び込んでいった。



ディムロスさんは紙一重でかわしたけど、ほんの数cm顔のすぐ横を掠り、髪の毛が数本飛んだ。

その時、光るイヤリングが見えた。











「…っ!!!あれは!」
「アトワイトさんどうしたんですか?!」

「彼、装飾品なんて邪魔だからって嫌うのに……さん、セネルさん!!あのイヤリングを壊して!!!」





アトワイトさんの叫びが聞こえた二人は全力でディムロスさんのイヤリングを狙いにかかる。
だけど、相手もそれを解っているから中々壊させてもらえない。


けど、今ならディムロスさんの注意はさんとお兄ちゃんに注がれている。




「今だ!!!スパーダ!!!」




「離れろよ二人共!!
サンダーブレードぉぉ!!!!








詠唱が終わったスパーダさんの電撃がディムロスさんに襲い掛かる。
そちらに注意を惹き付けられたディムロスさんの隙をつき、さんの剣が光った。





瞬迅剣!!!!!






さんの剣が、イヤリングを貫いた。

外れたそれは床に落ち、やがてはジェイドさんに踏まれ粉々になった。








パキン、と乾いた音と同時にディムロスさんは意識を失って倒れた。
アトワイトさんが駆け寄り、安否を確認する。
どうやら眠っているだけみたい。


安堵の笑みを浮かべるアトワイトさんの瞳には涙が浮かんでいた。






「彼女に此処は任せましょう。我々はまだ戦いが残ってます」

「…皆さん、お気をつけて…。彼が目を覚ましたら私達も行きます」


「ディムロスさんが目覚ます前に終わらせておくよ!行って来ます!!」



さんの言葉に頷く私達。



いよいよ、決戦なんだ。