「セネル、代われ!!」
「そうだ!貴様はこの男と行け!僕がそちらに入る!」
「…いい加減諦めろ!!!」
スパーダとリオンは行く直前まで駄々をこねていた。
ついには二人に挟まれたセネルまでもが切れて収拾がつかなくなった。
この事態を収めたのが、曲者と名高いジェイド・カーティスだ。
「嫌ですねえ、軍人が感情に流されて出発を遅らせるなんてことがあっては。諦めの悪い男は嫌われますよ。ねえ、?」
「え?あ、うん?」
急に話を振られ、聞いていなかったは兎に角返事をしておいた。
だが、その言葉を聞いた瞬間リオンとスパーダがぐっと押し黙った。
「……俺の足引っ張んじゃねーぞ」
「その台詞そのままお前に返す」
まだ互いに睨み合ってはいるが、一緒に行くことには納得したようだ。
「中々、罪な人ですねは」
「?」
「そうだ、これ」
セネルはにエンブレムと腕輪を渡した。
「…ありがとうセネル!」
受け取り、右腕に腕輪をはめる。
それはだけにあつらえられたもの、不思議と腕にフィットする。
エンブレムもしっかりと懐に仕舞い込んだ。
二手に分かれ、・セネル・ティア・ジェイドは西棟に行く事になった。
軍基地内に詳しいジェイドやティアがいることで特にこれと言った苦労も無くレバーの解除には成功。
難なく北棟までは来れた。
だが北棟の前で合流する筈のリオン達がまだ来ていなかった為、近くの部屋に身を隠す事にした。
「何を手間取っているのかしら?」
「まあおおよその見当はつきます。あの二人がまたもめてるんでしょう」
合流した後は任せましたよ、との肩を叩くジェイド。
何のことだかよく解っていないは隣にいたセネルに目で訴える。
セネルは首を横に振って答えた。
「…ところで、クヴァルって奴の所に行った後どうするんだ?一応は同じ軍の人間だろ?倒すってわけにも…」
「私達を罪人にしたような奴です。アイツの悪巧みの証拠位掴んでますよ」
ジェイドの目は笑っていなかった。
その笑みを見たとセネルは背筋が一瞬凍った気がした。
「穏便に行くなら、逮捕…しかし相手が武力で来るなら応戦するまでです」
「……なあ、クヴァルは三年前からホーリークレスト軍にいるんだろ?その前までは何処にいたとか判らない?」
「…いいえ、そういえば…いつからいたのかしら。気がついた時には将軍の地位にあったし…」
ティア達もクヴァルの存在に気付いたのは今の地位にいた時かららしい。
今前線に赴いているような人物がそれまで気付かれないということがあるのだろうか、とセネルは首を傾げたが
だけが暗い表情をしていた。
「?どうしたの?」
「…へ?」
「なんだかこの世の終わりみたいな顔していましたよ?」
「どんな顔だよ。…それはさておき、本当にどうしたんだ?」
三人の注目を集めてしまい、どうすればいいのか判らなくなった。
上手く言葉が発せない。
自分ですら、よくわかっていないのだから。
「なんでもな……っ!」
ふと、この間の会話が頭をよぎった。
スパーダが自分にかけてくれた言葉。
『なんで手伝ってくれって言わねえんだ!』
確かに自分が抱えている問題だけど、自分一人でどうにか出来るものでもない。
自分にはまだそれだけの力量も経験も無い。
イクセンにいる仲間も自分を受け入れてくれた。
エルグレアには自分と同じ境遇の子がいた。
自分はこの世界を守る“ディセンダー”。
それならこの世界の住人である彼らにも、そのことを話す義務はある。
「……大佐は……“ディセンダー”って知ってる…?」
その一言にジェイドの目つきが変わった。
「昔文献で読んだ事がある程度ですがね…。確か…“世界を守る者”でしたか」
「うん、そして…クヴァルは元“ディセンダー”だ」
「「「!!」」」
三人の瞳に驚愕の色が浮かんだ。
まさかクヴァルが、そして何故がそれを知っているのかと言う意味でだ。
「…続けてください」
「…オレが今まで出会った敵は皆“ディセンダー”として別々の世界にいたんだ。だけどその世界が無くなったから此処にいる」
エルレイン、ダオス、クヴァル、そして船で出会った不思議な女性。
「エルグレアにディセンダーだった女の子がいた。彼女は自分の世界を滅ぼされたって言ってたんだ」
「…ちょっと待って、それってこの間の任務のこと…?」
「うん、ティアは部屋に入って具合が悪くなったでしょ?あの部屋にはマナが満ちていた。とても純度の高いマナがね」
「私達は薄れたマナの中で生活していますからね、いきなり濃いマナの中では満足に活動出来ないでしょう。…だが、。貴方は違ったんですね?」
ジェイドの聞き方は確信めいたもの、つまり大体予想はついているんだろう。
「オレは……オレも…女神マーテルによって生まれたディセンダーなんだ」
「おい、少し聞きたいことがある」
「あぁ?」
ようやくレバーの解除を終え、北棟に向かっている最中リオンがスパーダに尋ねた。
正確にはスパーダとシャーリィにだ。
「お前達は此処までと一緒だったのだろう?あいつに変わった事は無かったか?」
「変わった…?………!!そういやぁ、変な女に会ったな。は“敵”だっつってた」
「何!?」
船で出会った女性の話をするとリオンは何かを考える素振りをした。
思い出すは、遺跡にいた金髪の男。
駆けつければとリアラが戦っていて、ティアやコレット・フィリアは何故か倒れていた。
自分もあの部屋に辿り着いてからの記憶が曖昧だということ。
「あいつ何か抱えてんだろ?助けてくれとも手伝ってくれとも言わねえけどよ、見てりゃすぐ判るぜ」
「僕も詳しくは聞いていないが…は自分でも気付いてない内に一線を引いているんだ」
「貴方がそのディセンダーだと言う事はどう証明出来ますか?」
「純度の高いマナに満ちた聖域にはディセンダーしか入れない。それは自身がマナで出来ているから。…大佐、手貸して?」
はそっとジェイドの手を握る。
ジェイドはの意図が読めず、ただ大人しくしていたが次第に自分に起こる変化に気付いた。
「…!!異常な程のマナ……!これは…………エナジーブラスト!!」
ジェイドは一番低級な呪文を唱えた。
それは小規模な爆発を起こすもの、だが対象物にしたものが見る影も無いくらい粉々になったのだ。
「…どう?」
「………理解しました。貴方そのものが“マナ”だということが」
ジェイドはに触れた瞬間自分の中に何かが入ってくる感覚を受けた。
それはのマナがジェイドの体内に入ったと言う事。
しかも純度の高いマナのお陰で魔術の効力がいつも以上に高かったのだ。
「クヴァル達の目的はこの世界を手に入れる…又は他の世界同様消すこと。オレはそれを止める為にいる」
誰もが言葉を発せないでいた。
の瞳はどこまでも真っ直ぐだったから、嘘とは思えないからだ。
だからと言ってもすぐには整理がつかない。
それはこの中でも一番冷静なジェイドがそうなのだから、他の二人なんてどういう言葉をかけたらいいのかも想像つかない。
「別に何か言って欲しいわけじゃないよ」
先に切り出したのはだ。
とてもすっきりした表情で、三人を見据える。
「オレ自身が、皆に話したかっただけだから」
「……俺は…を信じるよ」
「!?」
発言したのはセネルだ。
ティアもジェイドも、そしてもセネルを見る。
「は嘘なんか言ってない。そしてはあいつらとは別の存在だ。それは俺やシャーリィ、スパーダが証明する」
「セネル……」
セネルはの手首をガッと掴むとずんずんと外へ出て行った。
「ちょっと、何処へ行くの!?」
「外だよ!もうスパーダ達も着いてる頃だろ?!あいつ等にも同じ話をすれば良いんだ!誰も疑う奴なんていない!!」
だが、セネル達を足止めする者がいた。
大佐だ。
真面目な赤い瞳がセネルを見据えている。
「待ちなさい。此処は敵地です。そんな悠長な事をしている時じゃないのは解っているでしょう?」
「…っアンタ…」
「それに私達だって疑っているわけではありません。そんな必要性も無いですからね」
「…………へ?」
「私達の敵でないのなら警戒する必要はありません。クヴァルと同じ存在?
でもあの人は“元”でしょう?
もうあの人は“世界を守る者”じゃないんです」
目から鱗、とはこういうことを言うのだろうか。
今まではディセンダーだった者と自分は同じだと思っていた。
マナによって生まれた存在。
そうやって区別していた。
だが、今大佐が言った通り彼らはもう“世界を守る者”ではない。
とは違うのだ。
「大体生まれはどうでもいいんですよ。要はその人がどういう人なのかが重要なのですから」
『生まれ方なんざどーでも良いんだよ。要はそいつが誰かってことだ』
ロニに言われたことと同じ言葉。
は無意識の内に、自分と他者との間に引いていた壁が壊れる音が聞こえた。