が連れて行かれてから数分間、俺達はどうにか脱出を試みていた。
だが、結界が張られ武器も無い状況では檻を壊す事は出来ない。
ならば、どうにか鍵を開けるしかないのだが……
「どうだ、スパーダ。届くか?」
「……っ無理だ……」
この檻の鍵はすぐ横の壁にかけてある。
しかし、その距離は届きそうで届かない絶対の距離。
こんなにも近くにあるって言うのに……!!
「くそ…っこんなことしてる場合じゃねえのに…!!こうしてる間にもが危険な目に遭ってるかもしれねえ…!」
スパーダが檻を握り締めたままうなだれる。
俺はそっと自分の手を見た。
手の中にはエンブレムが二つ。
が俺に託したもの。
あれだけ、取り上げられないよう必死に守っていたものを俺に預けた。
それは信頼の証と受け取っていいのだろうか。
なら、その信頼に応える為にも俺達はこんな所でくすぶってるわけにもいかないってのに……!!!!
「みゅっ!!」
…?
今何かの鳴き声が聞こえた気がしたが…?
「「ミュウ!!!」」
突然スパーダとシャーリィが叫んだ。
二人の視線の先には小さな動物が1匹。
「皆さんやっとみつけたですの〜」
「そっか、ミュウ道具袋に入ってたんだっけ。よく見つからなかったね」
「こっそり逃げてきたですの〜。皆さん何やってるですの?」
「見てわかんだろ!捕まってんだよ!ミュウ、そこの鍵取ってくれ!!」
スパーダはその動物よりも遥かに高い位置にある鍵を取ってくれと言った。
それは流石に無理じゃないか…?
「任せてですの!!」
すると動物はひょこひょこと鍵の真下まで近寄ると、なんと耳を動かして空を飛んだ。
「!?」
「取れたですの!!」
「よっしゃあでかしたぜ!!」
「すごいよミュウ!」
「あの生き物はなんでしょう…?」
「俺も知らない…」
俺とアトワイトさんだけが置いていかれた気分だった。
兎にも角にも、ミュウのお陰で俺達は牢から出ることに成功した。
その後もミュウの案内の元、武器が置いてある部屋まで行き暴れながら基地内を走り回った。
粗方兵士は気絶させたし、大分警備も薄れた。
を捜すなら今しかない。
「は何処だ!?」
「ミュウ、さんの匂いとかわからない?」
「なんだか、こっちの方から強い匂いがしてくるですのっ」
一番奥の部屋へと続く道は何かが暴れたように散乱していた。
壁には銃弾の跡が転々としているし、窓ガラスは割れていた。
なんだか嫌な予感がして、足を急がせた。
「ここからさんの匂いがするですの!でも…なんだか血の臭いまで濃くなっていくですの…」
ミュウの言葉を聞くと同時にドアを開けた。
そこで見たのは嫌な光景。
「…っ嘘だろ……?」
「そ…そんな…」
点々と床に落ちた血、割られた窓。
けれどの姿は無い。
「ここでさんの匂いが途切れてしまってるですの…」
ということはこの血はのものなのか?
嫌な考えが頭をよぎる。
そんな、無事でいてくれ。
シャーリィは顔色を真っ青にして、スパーダは帽子を深く被り歯をきつく噛み締める。
アトワイトさんはキョロキョロと部屋を見回し、辺りを注意深く観察し始めた。
「…これは…」
「ど、どうしたんですか?」
急にアトワイトさんが床に座り込み、血が途切れた辺りで何かを捜し始めた。
「こんな不自然に血が途切れているということは…この辺に必ず…!!?」
何かを発見したらしい。
俺達は一様に集まってその一点を覗き込む。
うっすらだが、床に切れ目がある。
触れようとした瞬間、床が動いた。
そしていきなり持ち上がったのだ。
「!!」
「おや、アトワイト少佐ではありませんか」
「……ジェイド大佐」
床から現れたのは眼鏡をかけた金髪の男性。
アトワイトさんが“大佐”と呼んだことから軍人なのが解る。それにアトワイトさんの話に“ジェイド”という名前も出ていた。
ということはこの人が反逆罪の濡れ衣を着させられた軍人なんだろう。
「こんな所に…隠し通路を作っていたんですか?」
「結構役に立つんですよ。それより、少し下がっててください」
取り囲むように集まっていた俺達を下げた後、ジェイドさんは床から上がり(なんか変な言い方だけど)下に向かって呼びかけた。
「大丈夫です。上がってきてください」
その声を合図に、黒髪の男と茶髪の女の人が上がってきた。
男の方は俺達を見て一瞬目つきを鋭くした気がするけど…気のせいだよな?初対面だし。
すぐ視線を逸らし、穴に手を伸ばした。
まだ誰かいるのか?
「いよっと……さんきゅリオン。…って皆!」
「「「(さん)!!!」」」
「さん、やっと会えたですの〜〜〜!!」
最後に顔を出したのは連れて行かれた仲間だった。
ミュウが待ちきれないとばかりに飛びつく。
それを笑って受け止める様は間違いなく、だった。
ゆっくりと上がると俺達の方へ歩み寄ってくれる。
だが、その足取りが微妙に重い気がする。
「、どうかしたのか?」
「あー…ちょっとドジってさぁー」
笑って誤魔化そうとしているが、俺より長く一緒にいたスパーダ達の目は誤魔化せないらしい。
全く信用していない。
「少し骨に損傷があるらしいんです。回復魔法をかけてあるので心配はいりませんが、少々完治に時間を要するようで」
「なっ!!大佐!」
「言うなとは言われてませんからねぇ」
「っ!!そんな大怪我してたのかよ!」
「もう平気だって!!後ちょっとしたら完全回復するから!」
スパーダが物凄い剣幕でに詰め寄る。
勢いの余り掴みかかりそうな様子のスパーダを止めようかと思ったら、俺より一歩早く間に入った奴が居た。
「それくらいにしておけ。コイツはまだ完全じゃないんだ」
「ああ?なんだ、てめーは」
「フン、自分の名も名乗れない奴に名乗ってやる程僕はお人好しじゃない」
「…っ…んだと!?…スパーダ・ベルフォルマだ!んでてめーは誰だ!!」
「仕方無いから名乗ってやる。リオン・マグナスだ」
なんだか火花が散っている…。
近くにいるがすっごくオロオロしているぞ。
ふとシャーリィを見れば、あの女の人と話している。
「私はティア。よろしくね」
「シャーリィです。よろしくお願いします。…あの、ティアさんってお幾つですか?」
「え?16だけど…」
『…!!たった一つしか違わないの…?!なのに…凄いスタイル…』
シャーリィまでなんだか落ち込んだぞ?!
おい、アトワイトさんにジェイドさん!呑気に会話してないでこの状況を治めてくれ!!
「さて、ここいらで作戦の一つも確認しましょうか」
ようやく場を治める気になったのか、ジェイドさんが手を鳴らした。
睨み合っているスパーダ達もようやく鎮まったらしい。
「我々がまず辿り着かねばならない場所は総司令室です。其処にクヴァルがいる…だが一つ問題があります」
ジェイドさんは机の中から見取り図を出した。
この軍基地のものらしい。
「此処が現在地…、そして目的地は此処です」
赤のペンでチェックを入れる。
総司令室は南棟三階の中央一番奥。
現在いるのは北棟一階。
「だが、此処へ辿り着く前にその手前の部屋を通過しなければなりません。けれど此処へは侵入者を防ぐ為のトラップがあります」
そのトラップを解除する為には西棟と東棟にあるレバーを引かなければならないらしい。
「時間のロスを無くす為にも此処は二手に分かれた方がいいですね」
「ええ。効率を上げるにはそれが手っ取り早いですからね」
「じゃあ俺達とそっちでいいじゃん」
「お前達は此処の地理に詳しくないだろう」
つまり、此処にいる人間は全部で八人。
どちらのチームにもホーリークレスト軍の人間を入れた上でバランス良いパーティを作らなければならない。
「回復役であるティアとアトワイト少佐には分かれて頂きましょう。…それから私とそこのお嬢さんも別の方が良いでしょうね」
シャーリィは後衛、ということはジェイドさんも後衛なのか。
後は前衛である俺達が半々に分かれれば良いんだな。
「じゃあジャンケンでもするか?」
「うーん、魔法剣士のリオンとスパーダは別々になった方が良いと思う。前・後と臨機応変に対応できるし」
成程。それにこの二人は分けた方が得策だろうな。
さっきの様子を見る限りじゃ、息が合わなさそうだ。
「それじゃあ僕とは少佐の班に行くぞ」
「おい、何ナチュラルに連れてってんだよ」
ああ…これでも火花が散るのか。
面白そうに見てないで、止めろ。そこの眼鏡!
「…やっぱりクジにしよう。赤ならアトワイトさんの班、青ならティアの班」
が素早くクジを四本用意した。
「それではレバーを引いたら、すぐに南棟へ向かってください」
「気をつけて」
「そちらもご無事で」
「後で会いましょう!」
和やかにしばしの別れを告げる四人。
いいなあ、そっちは平和で。
「……納得出来ん…」
「なんで俺がこいつと…」
「セネル、頑張ろうな!」
「…ああ。あんまり無理するなよ」
クジの結果、俺とが青でスパーダとリオンが赤を引いた。
大丈夫だろうか…この班分け。