よりにもよって反逆罪だと…?
…クヴァルめ…あいつが現れてからこの国はおかしいぞ。
王も王だ、自分の身に起きた異変に位気づけ!!!
僕とティア、それからジェイド大佐は罪人として追われる身となっている。
それはクヴァルのやり方に同意しなかったから。
恐らくアトワイト少佐もだろう…今だ出張から戻っていないわけ筈はない。人質になっているに違いない。
彼女もクヴァルを否定していたから。
だがこのまま黙っているわけにはいかない。
どうにか奴を捕らえられないものか…。
僕達はジェイド大佐を筆頭に彼がいつの間にか作っていた地下部屋に隠れ作戦を練っていたのだが…。
「…リオンっ!!」
上が騒がしいから様子を見に行った大佐は久しい顔を連れて戻って来た。
だがその姿は哀しいものに変わっていた。
汚れた衣服、腕や足からは血が滴り、顔にはまだ新しい痣があった。
さり気なく大佐が腕を掴んでいるのは逃がさないよう押さえているわけではない。
支えているんだ。
歩き方や立ち姿がおぼつかないこいつを。
…どれ位重傷なんだ…お前は。
今、回復魔法が使えるティアはいない。
すぐに治してやれない歯痒さを噛み締めながらも手当てをしてやる。
……大佐が物珍しそうな顔で僕を見たが、今はそれどころじゃない。
粗方事情を聞くと、こいつは僕らの内通者だと思われて捕まったらしい。
クヴァルがだけを引き離したのは僕らの任務報告を聞いて、関わりがあることを知っていたからだろう。
「…上手く逃げれたかなあ…」
ポツリと呟き、心配そうな表情を見せる。
仲間がまだ捕まっていると言っていたな…。
だが自分より他人を優先するなんて、本当に甘い奴だ。
いや…お人好しと言うべきか…。
「さてと、いつまでも此処に留まっている場合じゃありませんね。ティアが戻り次第すぐ動けるよう準備をしましょう」
「ところで…なんでこんな場所があるんだ?」
「こんなこともあろうかと他国にいる幼馴染を見習って作っておきました。便利ですよー♪」
「いつの間に…」
この上官だけは未だに理解出来ない部分が多すぎる。
「…あ、オレ武器取られたんだ。早く取り返さないと」
「何処かに置いてあるとは思うが、見つかるまではこれを持っておけ、間に合わせだが無いよりマシだろう」
僕の剣を一つ渡す。
細身だが、丸腰よりは良いだろう。
「え…いいのか?でもリオン…」
「足を引っ張られても困るからな。僕には晶術があるし、お前より経験も積んでいる」
「…サンキュな!」
なんでそんなに笑顔で礼が言えるんだ。
このエヴァにもお前みたいな人間はいないぞ。
「…珍しいですね。鉄仮面とも言われた貴方が」
「…どういう意味だ」
に聞こえないように話しかけてくる言葉は嫌味としかとりようがない。
「いえ、すごく年相応な顔をするもんですから」
……この僕が…?
軍人になってから感情は殺したはず…。
それが、こいつの前だと出るって?
実力のある者が上へ行く世界では、まだ年端のゆかない者でもそれ相応の地位が与えられる。
だがそれは時として反感を買う。
あの若さで、あの強さは異常だ
化け物だ
そんな陰口を叩かれることなど慣れていた。
いちいち気にしていたらキリが無い。
そんな暇があるなら言わせない程の実力をつければ良い。
そう信じて来た。
だが…といる時は軍人の“リオン・マグナス”ではなく、ただの“リオン”としてそこにいる。
馴れ合いは嫌う自分でも、不思議と引寄せられる。
街中で堂々とアイスを食べたり、背中を合わせて戦ったり。
傷の手当をしたり、武器を貸してやったり。
今まで生きてきた中で初めてのことだらけだ。
「どしたのリオン?何か黙りこくって」
「…!!なんでもない!!」
「??」
「いやぁ青春ですか?…おや、ティアが戻ったようですね」
コツコツとヒールの音が地下に響く。
確かにこの足音は彼女だけだ。
暗い通路から現れた影は確かにティアだった。
「ティア!」
「…此処にいたのね!!貴方を捕らえたって兵士が言ってて……って、貴方凄い怪我じゃない…!!」
の姿を見たティアは急いで回復呪文を唱え始めた。
実力は軍でも指折りの彼女、たちどころに傷は全て塞がった。
「ありがとー。あ、でも流石に内部はすぐには治らないか…」
「そうね、表面上の怪我は治っても骨折とかはすぐには…っまさか体内も傷付いてるの!?」
「足手まといになる前に言っとくけど、ちょこっとアバラ蹴られた。くそーあの細目めー!」
「もうその情報を聞いた時点で戦力としては数えにくくなりましたけどねえ。まあそれだけ怒る元気があるなら大丈夫でしょう」
呆れた…。
それだけ重傷なのに、何処からその元気は来るんだ…。
少しは怪我人らしく大人しくしていろ。
「今、上の様子を見てきたんですが…どうやら脱獄した者達がいるようで、兵士はそちらに集中しています」
「成程…では、クヴァル将軍の所に行くなら今ですね。手薄でしょうし」
「それから…どうやらアトワイト少佐も一緒のようです」
「ああ…では安心です。その脱獄者とやらはの仲間のことでしょう。兵士達を撹乱してくれてるんでしょう」
クヴァルがいるのは恐らく司令室。
そこまでの道程に兵士がいないならこれ程楽な事は無い。
権力でのし上がったと言えど、クヴァルは強敵。
戦争では参謀としての知識もあるし、敵を一挙に殲滅するほどの実力者だ。
戦う力は温存しておきたい。
「では行こう。話合いは最早…無意味だ」
「ええ…止められるのは力だけよ」
「しかし気をつけてください。彼の側にはディムロス中尉がいます。
何故彼程の人物がクヴァルに付いているのかは知りませんが、話が通じなかったら手強い相手です」
「行こう!皆!」