「クラァ!!!何しやがる!!放せってんだ!!」


引き摺るままに連れて来られたのは暗い地下牢。
スパーダの声が虚しく響き渡る。

達は一番奥の牢屋に突き飛ばされるように入れられた。















「いってぇ…頭打った…」
「大丈夫か、

一番先頭にいたは全員一塊のように突っ込まれた為、皆の下敷きになってしまった。
セネルが労わりの言葉をかける。






「くっそぉ…!武器は取られちまったし、この檻魔法が効きやしねえ!」



悔しそうに鉄格子を蹴飛ばすスパーダ、少し当たり所が悪かったのか痛そうにしゃがみ込んでいる。

どうやらこの牢屋は特殊な結界が張ってあるらしく、シャーリィやスパーダの魔法が効かない。
捕まった時に武器は全て取り上げられ、道具袋も取られてしまったのだ。
に至ってはマーテルから貰った腕輪まで外されてしまい、為す術無しである。
















「…誰…?」


「「「「!!?」」」」



ボソリと聞こえてきたのは女性の声。
この牢屋意外と広く奥の方は光が入らず気がつかなかったが、もう一人先客がいたのだ。


四人は背中を合わせるように立ち、どんな方向からでも対処出来るようにした。











「誰かいるのか…?」







その時月明かりが小さな窓から入り込み、人影が露になった。
大きな白い帽子、サラリと伸ばされた髪、細い肢体。

少し弱っている様子が見られるが、それを差し引いても儚げな女性だった。










「貴女は…?」
「私はホーリークレスト軍に所属する、アトワイト・エックス。階級は少佐です」
「少佐!!?なんでそんな人が牢に入れられてるんだ!!?」
「待った、セネル!それよりアトワイトさんって言ったら…エルグレア出身の?」
「どうしてそのことを…、まさか貴方が」



は自分がイオンの紹介でやってきたことを告げる。
それを聞いてアトワイトの目が見開かれる。





「!!…そうでしたか、わざわざ遠い所から来ていただいたのに…このような状況で…」
「ナタリア…姫から大体は聞いています。けど…リオンとティアに何があったか教えてください!!」







は手の中にあるエンブレムを握り締める。
所持品を取り上げられた時もこれだけは渡さなかった。







「…彼らは…反逆罪に問われ追われています」
「!!」
「クヴァルのやり方に反論を唱えたのです。二人以外にもクヴァルを止めようとした者が同じ様に罪人扱いされています」



アトワイトの話では何人かの軍人は罪人扱いされ、現在逃亡中だと言う。
つまり、二人のエンブレムを持っていたは重要参考人と言う事になっているのだ。



「アトワイトさんは逃げなかったのか?」
「私は丁度外に出ていましたので…帰ってきた早々に此処へ連れてこられました。恐らく人質でしょう」
「許せませんね…。権力で悪行を重ねるなんて…」














その時、コツコツと足音が響いた。
足音は達の牢の前で止まった。













「おい、そこのお前来い!クヴァル将軍がお呼びだ!」


騎士が指したのは


「将軍直々にに何の用だ!」
「連れてくなら俺等も連れてけ!!」


セネルとスパーダがを庇うように立ちふさがる。
だが、それを制したのはだった。


「オレが行けば良いんだな?」

「「!!」」








すれ違う瞬間は二人にだけ聞こえるように呟いた。
そしてセネルの手に何かを握らせる。

「適当にオレが暴れておくから、どうにか脱出して」













手枷を付けられ、は連れて行かれる。
その後姿を全員は見守るしかなかった。




























の姿が見えなくなった後、セネルは手の中を見た。


「!!」

「どうしたセネル……!これは!」






それはリオンとティアのエンブレム。
がこれだけは、と死守したものだ。




「あの馬鹿…、何か無茶やらかす気だ」
「…一刻も早く脱出しましょう!!さんを助けに行かないと!」
「ああ!アトワイトさんも協力してくれ!」
「…勿論です!」



























「連れてまいりました」
「ご苦労様です、下がって良いですよ」


部屋の中にはと一人の男のみ。
他に誰かいる気配は無い。



「初めまして、クヴァルと申します。…我等が同胞」
「!!!」


浮かべた笑顔は何故か寒気がした。
隠し切れない血の臭い、ひしひしと伝わってくる殺気。



「アンタ…“ディセンダー”…」
「ええ…“元”ですがね…。それにしてもこの世界の人間は無能すぎる。そう思いませんか?」
「世間話をする為にオレを呼んだわけじゃねえだろ」


強気な姿勢を崩さないに、クヴァルは高笑いをした。
この男の意図が読めない、とは冷や汗を流した。



「ええそうですね…。無駄話は置いておきましょう。…結論から言えば…邪魔なんですよ、
君が!!


いきなり腹を蹴られ、は床に倒れた。
避けることも出来なかったのは、それだけクヴァルの実力が高いことを物語っている。



っが…ゲホゲホ…」

「まったく…エルレインもダオスもこんな子供相手に何を梃子摺ったのでしょうね…理解し難い…なっ!」
「ぐっ!!」




二発目、今度は頭を踏みつけられた。
口を切ったらしく、の唇から血が流れた。




「今からでも遅くありません。我々に協力すると言いなさい。この世界の“ディセンダー”である君がいれば制圧などすぐだ」


は口の中の血液を吐き出し、クヴァルを睨み付けた。










「お断りだ、ばーか」










笑顔だった表情に、冷たい瞳が覗く。


「…残念です。どうやら君も無能な分類だったようだ」


「っ!!」


再び鳩尾を蹴られ、は部屋の端に転がされた。






むせ続けるに、興味を無くしたクヴァルは兵士を呼び牢に連れて行けと命令する。

チャンスは今しかない。

騎士がこの部屋に到着するまでの時間、このタイミングを逃せば再び捕まる。

部屋の隅にあった植木鉢を掴みそれを窓ガラスへ投げた。




「暴投ですか?どうやら最後の悪あがきも…」


投げると同時に走り出したは飛び散るガラスにも構わず窓に飛び込んだ。
この部屋は三階にある、常人ならただではすまないがアドリビトムなら判らない。
しかも下には植え込みや木がある為、ダメージが軽減される。



「逃げたか…!下にいる兵士全員に捜索させろ。どんな状態でも良い、ただし生きた状態で連れて来い」


























「…っ…ちょっとアバラにヒビ入ってるかも…。足は…大丈夫みたいだな」



大袈裟な音を立てて脱出したのだから兵士の目は全て自分に向いている筈、これでスパーダ達が逃げやすくなれば…。

そう考え、なるべく敵の目をわざと集めながら走り回った。
もう一度建物内に入り、中にいる兵士も引き付けた。


だがクヴァルに負わされた傷や、三階から落ちた時に出来た傷等があり動きも鈍くなった。






「…っ!!!」

「今だ!!撃っても構わん!足を狙え!!」



兵士達の発砲攻撃に足、腕を掠められ体勢を崩したは近くの部屋に倒れた。













「ここまでだ!!取り押さえろ……あれ?」




兵士が部屋に入ると、其処には誰もいなかった。



「この先には他に部屋は無い筈だ…」
「上官!窓が割られています!此処から逃げたのかもしれません!!」
「外か!追え!」




兵士は部屋を後にし、全員外へと走って行った。






















「…っ…あれ?」
「大丈夫…と言える状態ではなさそうですね」


部屋に飛び込んだ直後、は床から現れた手により引きずりこまれた。
お陰で兵士の目を逃れる事が出来たのだが。

は誰かの腕に支えられていた。
いや、支えられていると言うよりがっしりと掴れている。



「…誰…」
「これは失礼。ですがその前に貴方の身元を確認させてください。貴方は…何処から来ましたか?」
「え…エルグレアから…」


そう答えると腕を掴む力が弱まった。
これは警戒を解かれたと言う事だろうか。
目の前は暗くてよく見えなかったが、段々と目が慣れてきて自分のすぐ後ろにいる声の主の顔がぼんやりだが見えてきた。



眼鏡をかけた、男性。

男性は持っていたランプを灯し、視界を照らした。





「お名前は?」
「……」
「…安心しました。貴方は敵ではないようだ。私はジェイド・カーティスです」


ジェイドはの手枷を弱めた魔術で壊してやり、ついて来るよう促した。
数十秒ほど進むと開けた場所に出た。





「灯を点けてもらえますか?」



ジェイドがそう言うと眩い光が部屋中を照らした。
一瞬目が眩んだが、何度か瞬きをして慣らしてゆくと懐かしい姿が見えた。




「……

「…っリオン!!!」



リオンの姿を見て、嬉しそうな表情をしただが反対にリオンは驚いていた。
それはが腕や足からは血を流し、顔には殴られたような痣があったからだ。




「お前…何故そんな格好に…」
「え?あ…ちょっと暴れてさ…」



慌てて駆け寄るリオンの姿を見たジェイドは珍しそうな物を見たような顔をした。
何が言いたいか察したリオンはジェイドを一瞥した後、の怪我の手当てに取り掛かった。



「今はティアがいない。少しの間は我慢していろ」
「うん…。でもさ…」
「なんだ?」



へらっとだらしない笑みを浮かべて、はリオンを見た。





「リオン達が犯罪者扱いされてるって聞いて…驚いた。でも…無事で良かった」




その笑顔を見てリオンは固まった。
どれだけお人好しなのか天然なのか解らないが、こんな風に面と向かって言われればリオンのリアクションは正しいだろう。




「…フン、人の心配をしておいて自分がこのザマじゃ笑えんな」
「なんだよー。ま、リオンらしいったららしいけど」



「いやー仲良しさんですねえ♪」