賑わう人々、活気溢れる街並み。


が今まで寄ったどの町よりも大きく広い、王都・エヴァ。






此処での目的はホーリークレスト軍にいるアトワイトに会うこと。
謁見はが持っているリオンとティアのエンブレムで容易だろう。


だが、その前に街を色々と見て回ることにした。













「セネルは仕事の用事、シャーリィは付き添い。スパーダは武器屋。…さてオレどうしよ」
さんもお買い物しないですの?」
「…んー別段欲しいものは無いんだけど…。道具でも買い足しておこうか」



は女神マーテルに与えられた腕輪から剣を出す為、新しい武器を新調することはない。
することもなく、手持ち無沙汰なのでいつでも出発の準備が出来るようにしておこうと考えた。


















一通りの道具を買い、広場で一旦休憩をする。
子供達が楽しそうに賑わい、傍らでは吟遊詩人が歌を歌っていたり。
ほんの何気ない日常がそこにあった。









「…こんなに平和なのに…」








一方ではダオスやエルレインのようにこの世界を滅ぼそうとしている輩がいる。
彼らの計画が何処まで行っているのかは判らない。

いつこの平和が壊れてしまうか、誰にも予測できないのだ。





「…いや、そんなことさせない」







「何がですの?」





グッと握り締めた拳を見つめていると何処からか少女の声がした。
自分達の仲間ではない声。

が顔を上げてみると、其処にはシャーリィとはまた違った綺麗なブロンドの少女。




「先程から暗い顔をされてますけれども具合でも悪いのですか?」
「い、いや…大丈夫…です。心配してくれてありがとう」
「よいのです。此方こそ、いきなり声をかけてごめんなさい」






少女は軽くウェーブがかった短いブロンドを風に靡かせ、悠然と立っていた。
それは品格を醸し出していて、凄く堂々として見えた。
流石王都の人は違うな…とが感心していると騒がしい声が広場に入ってきた。









「やめてください!!」
「んだよ、ちょっと酌してくれって言ってるだけじゃねえか」




まだ日も高いと言うのに、二・三人の酔っ払いが女の子に絡んでいた。
周りの人も止めに入らない。
むしろ、まるで其処には壁があるように誰も干渉しようとしないのだ。






「おやめなさい!!」




「ああ?」






気付けば先程までの前にいた少女が果敢にも男達に立ち向かっていた。
自分よりデカイ男にも怯む事もなく絡まれていた子をさっさと逃がすと、きりっとした顔で怒鳴った。




「昼間からそんなになるまでお酒を飲むとは何事です!恥を知りなさい!!」
「んだと…このアマ!!




男達の手が少女に伸びる。
少女は目を逸らさず、前を見ている。













だが伸ばされた手は少女には届かなかった。









「男が女性に手を上げるなんて恥を知った方がいいんじゃね?」







が少女と男の間に滑り込み、片手で男の拳を押さえつけているからだ。
は見た目こそセネルやスパーダより小柄だが、そこはアドリビトムとしての実力もある。
一般市民を抑えるくらいわけないのだ。


掴んだ拳から素早く手首を掴み、一本背負いの要領で投げ飛ばす。
一番巨体な男を倒したことにより取り巻き達も引いて行った。
「覚えてろっ」と悪役にありがちな台詞を残して……。














「怪我、無い?」
「ええ、大丈夫ですわ。貴方お強いのね」
「そうかな?オレは他人に注意出来る貴女みたいな人の方が強いって思うけど」



が率直にそう言うと少女は目を見開いた後、満面の笑みを見せた。



「ありがとう。あら、私ったらまだ名前も名乗っていませんでしたわ。初めまして、ナタリアと申します」
「オレは
…貴方この街の方じゃありませんのね」
「判るの?」


「ええ……悲しい事に今のエヴァに貴方のような方はいらっしゃいませんから」



ナタリアは悲しそうな顔をした。
そういえば、さっきあんなことがあったと言うのに野次馬の一人もいなかった。
誰もが見て見ぬフリをして行ったのだ。








「…この国は変わってしまいました」

段々とナタリアの表情が曇っていく。
















問題は三年前から王政が悪化したことから始まる。










「何故…?」
「王が病の淵に倒れてしまったのです。…そして軍が政事を行うようになったのですが…」


エヴァにはホーリークレスト軍と言う王族直属軍がある。
それは、王の楯となり剣となる。


政事において、軍が前線に出ることなど無かったが次第に頭角を現し今やエヴァは軍事国家となっているらしい。
税金は値上がり、民の暮らしにくい国になり、人々の心は廃れてしまったそうだ。




「そんな…酷い。一体誰が政事を行ってるんだ?」
「主には上の組織ですが…統制をとっているのは、クヴァル将軍と聞きます」


実力が高いことは確かな評価だが、その人格は恐ろしくも非道なものだと言う噂だ。
戦場において、邪魔な者は敵味方関係なく排除する。
どんな些細な反乱も見逃さない、例え民間人の小さな反抗でもだ。



「彼が前に出るようになったのも三年前からです…。王が倒れてすぐ彼が統率をとるようになったのですが…。
 私にはそれが謀られたようにしか思えませんの」



確かにタイミングが良すぎる。
王が倒れたとなってはもっと慌てて、一時は滞りを見せても仕方が無い筈なのに。
まるでこうなることが解っていたかのように―――…









「ナタリア、王様は前々から病気がちだったの?」
「…いいえ倒れるまでは病気らしい病気もした事がないお方でしたわ。でも一度倒れられてからは日に日に弱って…」



声がか細くなってしまったナタリアの瞳は次第に潤んでいく。
マズイ、と慌てたは何か無いかと身の回りを捜してみる。



「な、ナタリア元気出して!」
「!?」



取り出したものはさっき道具屋で買い物した時に貰った花の形の飴だ。
迷子になった子供をあやすのではないのだからこれは失敗だったかと顔色を伺う
見ればナタリアはふるふると震えている。





『やばっ…怒らせた?もしくは泣かせた…?』




「……フフ…」




聞こえたのは軽い笑い声。




「ウフフ…貴方……面白い方ね。ありがとう、




彼女が見せたのは屈託の無い笑顔だった。










「でもナタリア、軍のことに詳しいよね。この街の人なら誰でも知ってることなのか?」
「いいえ…私は―――…」







―――!」






用事を済ませた仲間達が戻ってきた。







「あれオレの仲間。紹介するよ、皆すっげえ気の良い奴等なんだ」
「まあ、それは楽しみですわね」
























、お前暇だったからってナンパしてたのかよ?」
「…スパーダ?もう一回オレの目を見て言ってごらん?」
「ナンデモナイデス…」


さん、此方の方は?」
「この街の人みたいだな」

「ああ、この人はナタリアって――――」












「そこまでだ!!!!誘拐犯共!!!!」






達が合流した瞬間、鎧を身に付けた騎士達がぐるりと周りを取り囲んだ。
武器を向けられて、しかも“誘拐犯”などと穏やかでない呼び名で呼ばれれば敵意を向けられているのが嫌でも解る。



「なっ…!?」
「ナタリア様、もう大丈夫です!!」




騎士が何人かとナタリアの間に立ちふさがる。
なんのことか解らない達はナタリアの言葉を待った。



「な、ナタリア…これは」
「気安く呼ぶな!!!このお方はナタリア・ルツ・エヴァ・ランバルディア姫殿下だ!お前達が近づいて良い人物ではない!」
「ひ…姫え?!」




「やめなさい…!その方達は…」
「この場は危険だ!早く姫様をお連れしろ!!」


ナタリアは成す術も無く、騎士達に連れて行かれた。
広場に残るのは達と騎士団だけ。










「なんなんだよ、俺等が誘拐犯なわけねーだろ!!」
「そうだ!オレはホーリークレスト軍の人に用があるんだ!!これ見てくれよ!」



は二つのエンブレムを取り出す。
それはリオンとティアから受け取ったもの。


それを見た途端、騎士団の顔色が変わった。






「お、お前…このエンブレムは…マグナス隊長とグランツ隊長の…。
おい、こいつ等を取り押さえろ!!
「え?」



一挙に騎士団が押し寄せ、抵抗する間もなく達は連行された。