町の一番奥にある大きな建物に連れて来られた。

ロイドはドアを思い切り開けて大声で誰かの名を呼んだ。




「おーい!クラース!!いないのかー?」







「…騒がしいぞ、ロイド」







二階の階段からゆっくりと人影が降りてくる。

大きいとんがり帽子を被った男性だ。






「なんだ?クエストでもするのか?」
「違うよ。今日は新入り候補を連れてきたんだ。こいつ、とミュウ」
「ミュウですの!よろしくですの」
「よろしく」






「…おや、これは聖獣チーグルじゃないか…。ここ近年見かけないと思っていたのに。しかも言語を話すとは珍しい…」
「ミュウは特別ですの!このソーサラーリングのおかげですの!」
「ほう」






ミュウは得意げに抱えているリングを見せた。
興味深そうにクラースは観察している。










「それはいいから、クラース!にアドリビトムの入隊試験受けさせてくれよ。結構腕は立つんだぜ?」

「そう言われてもな…。と、言ったかな?君はアドリビトムが何かわかってるかね?」







「お助け屋って聞いたけど…。魔物退治とかするのか?」


「まあ大まかに言えばそれもある。だが他にも探索や生産、配達なども請け負っているんだ」

「具体的には?」











探索、というのは人々が捜し求めている物を見つけて持ってきたり怪しげな場所を調べたりすること。これには人探しも含まれる。
生産、というのは買えない品を作ること。材料を自分で集め、製作する。
配達、というのは物を届けること。これは人々が簡単には行けない場所に限る。
そして退治、というのは魔物退治のこと。




クラースはひとしきり説明し終えると、何やら厚めの本を開いて数枚のメモを見せた。






「例えばこのようなものだ」



・森に生息するウルフを五匹倒して欲しい
・炎の洞窟に入って行った女性を保護して欲しい。







「我々は町の人々の為に全力を尽くさなければならない。キミにその覚悟があるかね?」







真剣な眼差しで見つめてくるクラース。
これは自分を試している目だ。








「勿論。やらせてもらうさ。だからその入隊試験を受けさせて欲しい」







まっすぐ見返すとクラースは口元を緩めた。




「良いだろう。ではこのクエストをまずやってみせてくれ」


クラースは一枚のメモをに手渡した。





「“大樹の森に生えている薬草、シルフォン草を三つ取って来て欲しい”…?」
「大樹の森ならそこまで危険な所ではないし、シルフォン草というのも難しい場所に生えている物ではない。どうだ?やれるか?」







「了解。行ってくるよ」









「入隊が認められるまでは一人でクエストをこなしてもらう。無論クエストを選ぶのはキミ自身だ」
「ということは…危険なものも一人で行かなければいけないかもしれないってことだな」

「ああ、そして受けたクエストは必ず達成してもらう。我々の信用度にも関わるからね」





そう言うと、クラースはに小さな袋を渡した。






「手ぶらで行かせるわけにはいかないからね。これを持って行くといい」


袋の中にはアップルグミが五個とオレンジグミが三個。









「頑張れよ、!お前なら出来るって信じてるからな!」

「ああ、行ってくるぜ。ロイド」
「頑張るですの!!」























〜大樹の森〜







「シルフォン草ねえ…どんな草か判るか?」
「ギザギザで赤い小さな花がついてるですの。必ず一箇所に一つずつ咲く薬草ですの」
「詳しいな」
「チーグルは草食ですの。森の植物なら全部判るですの」



凄いな、と素直に感心した。







「じゃあどんな所にあるんだ?」
「主に日陰に生えるですの。大きな樹の根元とかを見てみると良いですの」









時折出てくる魔物の相手をしながら、シルフォン草を探す。


取り合えず二本までは順調に見つけたが、最後の一本が見つからない。








「無いな〜…」
「無いですの〜」







段々と森の奥まで入っていく。
もう残るは聖域だけだ。








「聖域の中にはあるのか?」
「駄目ですの。聖域に生えているものは取ってはいけないですの。生態系のバランスが崩れてしまうですの」



「そっか。じゃあもう一回戻って探すしか…」


「キャアアアア!!」






「「!!?」」


森に響き渡る女性の声。

急いで足を動かした。














「あそこですの!!」


見れば魔物に追いやられ樹の上にいる女の子と、その樹の下で女の子を落そうとしている魔物。

まずは魔物の注意をこちらに惹きつけなければならない。





魔神剣!!




衝撃波が魔物にぶつかり、魔物はをターゲットに切り替えたようだ。
猪のような魔物はこちらに向かって突進してくる。





さん、あいつはエノッサスですの!突進してくるですの〜〜〜!!」
「分かってる!ミュウはどっか隠れてろ」










ギリギリまで惹きつけて、頭上を飛び越えるように避けるとエノッサスはそのまま樹にぶつかった。
そして再度自分に向かって来ようとするその一瞬をは逃さなかった。






「くらえ!!
瞬迅剣!!」




素早い突きがエノッサスの眉間に刺さる。

突進の勢いもあってか、それは致命的なダメージとなったようだ。

エノッサスは地に倒れた。










「ふう…。よし、もう降りてきていいぞ」


樹の上の女の子に声をかけるが女の子は固まったまま動こうとしない。


「…どうかしたか?」


「……降りられない」
「……」


















「いよっと…。あー助かったああ!」
「降りれないのによく登れたな…」




結局が樹に登り、女の子を背負って樹から降りた。






「火事場の馬鹿力ってやつかなー?まあでも助かったわ、ありがとねん♪あたしノーマ・ビアッティ!」
「オレは。ノーマはなんでこんなとこに?戦えないのに危険じゃないか?」
「ここに来たのはお宝探しなんだけど〜ちょい張り切りすぎて魔力無くなっちゃったんだよね〜」

「もしかして、ノーマもアドリビトム?!」

「え?」







大きな黄色いボンボンが目立った少女、ノーマは自称トレジャーハンター。
探索クエスト専門で今日も探索ついでにお宝を探していたと言う。






「へ〜じゃあぴょんもアドリビトムに入るんだ〜。あたしの後輩じゃ〜ん」
「(ぴょん…?)そうなる…かな?だから今入隊試験をっと…そうだシルフォン草…」





さーん!!あったですの!!」





そこへミュウが最後の一つであるシルフォン草を持って駆けてきた。





「何処にあったんだ?」
「さっき隠れてたら見つけたですの」

「なんか助けに来て正解だったみたいだな」








兎も角、これでクエスト終了だ。









「ただいま、戻ったよクラースさん」

「早かったな…って、ノーマ!?なんで一緒に?」



「でへへ…実はぴょんに助けてもらっちゃって〜…」
「…ハア、あれだけクエスト以外の行動は控えろと言ったのに…」




重い溜息を吐きながらクラースは一枚のメモを取り出し、に渡した。








「“アドリビトムの一人、ノーマを連れて帰ること”…って」





「丁度私が誰かに頼もうと思っていたクエストだ。、結果オーライだな」

「ということは…は二つも一遍にクリアしたことになるのか!?すげー!!」



ロイドの言葉にクラースは笑顔で頷いた。






「ま、一応仮合格だ。とは言え、一人前と認めるにはまだまだだけどな。キミは“アドリビトム見習い”ってとこだ」
「頑張れよー!後ちょっとだぜ!」






「ああ。必ず合格してみせるさ」















その後ロイド・ノーマと一緒に食事をする為宿屋に向かった。

ロイドとはすっかり意気投合し、まるで長年の友のように接する事が出来るようになったし、ノーマはノーマで気さくな性格からか全然気を使わず話すことが出来る。

それ故、打ち解けるのに時間はあまり必要無かった。




「で、ぴょんってどこから来たの?」
「お、それ俺も気になってた!」
「…何処って言われても…」




大樹ユグドラシルから生まれたとは言えないよな…。





さんは記憶を無くしているですの。だから自分の名前以外覚えていないですの」

「…そうなの?ありゃりゃ〜ごめんね」
「悪かったな…。言いにくいことなのに」



あまりにノーマとロイドが落ち込むものだから、少し罪悪感が残る。

本当のことを言えないから。






「いや、全然。(忘れたって言うより無いって言った方が正確なんだけどね)その代わり今日新しい思い出出来たし」



にこっと微笑むと二人がほっとしたような笑みを浮かべた。







「まあ他のアドリビトムはそんなに詮索してこないと思うよ〜。皆も色々抱えてるっぽいしね」
「そうそう、どことなく一線引いてる部分がある奴もいるけど気にすんなよ」







色々な話をした。
どんなクエストが苦労しただの、こんな魔物を見ただの。

知らないことを吸収するって気分が良いんだな。









「じゃあ飯食い終わったら、他のアドリビトムのとこ行こうぜ。挨拶しにさ」
「あ、いいね。ぴょんが早く慣れる為に行っておこ〜」

「そうだな。オレもどんな人達がいるか知りたいし、なあミュウ?」
「はいですの!」