船は無事港へ辿り着いた。
後は王都へと徒歩で行くだけなのだが…、
その前に!








「シャーリィのお兄さん捜さなきゃな」






シャーリィの兄は港を転々と渡り歩いているらしい。
マリントルーパーと言う海の治安を守る職業は一つの海だけでなく、呼ばれれば船の護衛にも行ったりするので一箇所に留まらないそうだ。
しかもシャーリィの兄はマリントルーパーの中でも指折りの実力者らしく、よく商船の護衛を頼まれるらしい。

一つの場所に留まる事が出来ない為シャーリィとは離れて暮らす羽目になったそうだ。





「運良くこの港で働いてれば良いけどな」
「一番最近の手紙ではエヴァ方面へ向かうって言ってたんですけど…」
「じゃ、此処だよなー…ってあれ!!




が指差す先には、間もなく此処へ到着しようと言う客船が中型の魔物の群れに襲われているのが見えた。




「シャーリィ、スパーダ!!魔術で攻撃!!」
「届かねえよ!小型のボートかなんかで接近しねえと…
っ!?





うろたえる民衆の間を潜り抜け、一台のモーターボートが物凄い速度で魔物の群れへと向かっていく。
そのボートの上に乗っているのは銀色の髪を持つ青年の姿、唯一つ。




「あれは…!」











ボートは減速する動きを見せない。
むしろ加速していく。




「まさか…あのまま突っ込む気か?!」





ボートの上の青年はひらりと飛び上がり海上で見事な立ち回りをしてみせた。
そして再びボートの上へと着地すると、魔物達は海へと沈んで行ったのだ。







「…すっげぇ…」




の口から言葉が零れる。
先程まで慌てふためいていた人々も見事な戦いに目を奪われていた。



だが、魔物の群れは留まる事を知らない。
いつの間にか青年のボートを取り囲んでいる。
客船は無事港へとたどり着いたが、このままでは青年が危ない。





「乗れ!!!」

「スパーダ!」




スパーダはいつの間にか近くに停めてあったボートに乗り込んでいた。
素早く意図を察したは急いで飛び乗った。



「飛ばすぜ!!」




勢い良くエンジンは回り、乗っている達を振り落とす勢いで走り出した。























「…っ流石にこの数は多いな…。客船は…無事か」



単身飛び込んだ青年・セネルは少し冷や汗を流していた。
先程倒した魔物の血の臭いを嗅ぎ付けた別の魔物までが集まりだした。
このままでは港にまで被害が及ぶかもしれない。
しかも、己の船のエンジンに不調が見られる。

少し、マズイ状況だ。












「どけどけーーーーー!!!!」


「!?」





背後から突然聞こえた声はセネルの周りの魔物を引き付ける様に派手な音を立てて近づいてくる。
セネルは驚いた。

乗っていたのが自分と同い年くらいの青年二人だったからだ。


















、ちょっとハンドル持っててくれ!!」
「ええ!?」



スパーダは有無を言わさずボートの船尾へ移動する。
慌てて無人になった運転席に座る



「喰らえ…!…
サンダーブレー「スパーダぁ!!!!!此処海!!!電気系駄目だって!!」あっ」



危うく全員感電する所だった。
は初めてのボートの運転にも、スパーダの魔術にも命の危険を感じた。










「わりぃ、わりぃ。つい、一発でドカーンとやっちまえばいいかと思ってたぜ。それじゃあ…
エアスラスト!!!


無数の鋭い風の刃が魔物に襲いかかる。
流石に海上での戦闘は不慣れなスパーダの術ではトドメを差すことは出来なかったが、突破口は開けた。


セネルの周りを取り囲んでいた群れの一角が崩れたのだ。

そこに達の乗った船が飛び込む。



「…助かった!!」




セネルは素早く乗り移る。
運転席のガチガチのと交代し、船を大きく迂回させ港から離れる。勿論魔物を惹き付けて。













「あー色々死ぬかと思った…。それもこれも
お前らの所為だーーー!!
「うおっ!が切れた!」



は思い切り剣に力を溜め、魔物へと振り払う。







「魔神剣・双牙ぁ!!!!!」






オーバーリミッツ状態の様にぶち切れてしまったの本気のお陰で、魔物を全て退けることに成功した。
























無事戻ってきた三人の青年達を港は大賑わいで迎えた。


心なしかスパーダは疲れた顔をしていた。
あの後魔物がいなくなってもの怒りは治まりきらず、必死に宥めていたのだ。

陸に上がると、セネルが二人に右手を差し出した。
握り返しながら互いに自己紹介を始める。





「正直助かったよ、サンキュ。俺はセネル・クーリッジ、マリントルーパーをやっている」
「俺はスパーダ・ベルフォルマってんだ。よろしくな」
「オレは、イクセンのアドリビトムなんだ」




「アドリビトム…?!」





セネルが“アドリビトム”に反応を見せた時、人の隙間を掻い潜ってシャーリィが現れた。


さん、スパーダさん、お兄ちゃん!」


「「「シャーリィ!!…え?」」」



三人は同時に顔を見合わせ、なんとも間抜けな顔をした。






















「まさかセネルがシャーリィの兄だったなんて、世界って意外と狭いな」
「だよなー。俺達も中々運が良いよな」


港の小さな食堂で一息つくことにした一行。
軽く食事を済ませ、談笑することで大分打ち解けてきたようだ。











「でもどうしてシャーリィがこんな所まで…?」


セネルは少し冷めた紅茶を飲みながら言った。
隣の席ではシャーリィが同じものを飲んでいる。




「オレ、王都へ向かうことになってて。それでシャーリィに同行を頼んだんだ。セネルに会いに来るついでに」
「俺に…?」
「オレの友達にも離れて暮らしてる兄弟いるからさ、やっぱ会いたいんじゃないかなーって」



は遠く離れたイクセンの地を想う。
ロニも別の町に弟のように育った奴がいた、中々会えないと言っていた。




「そうか…。俺も久しぶりにシャーリィに会えて嬉しいよ」
「お兄ちゃん……」



外見は全然似ていないが、雰囲気には兄妹だと思わせるものがあった。
嬉しそうなシャーリィを見て、も自然と顔が綻んだ。










「さて…で、これからどうすんだ?シャーリィはもう目的を果たせたんだろ?だったらこれ以上危ない旅はやめた方がいいんじゃねえ?」
「いいえ、私…行きます。お兄ちゃんに会う事もそうだけど…、私は自分の意志でさんに付いて行くことを決めたんだから」




真剣な瞳で答えるシャーリィ。
責任感の強い彼女は途中で投げ出したりしない。



「でも、やっと会えたのに…」



「じゃあ、俺が一緒に行くってのはどうだ?」
「え?」




兄妹水入らずを邪魔しちゃ悪いだろうとが止めようとした時、セネルから意外な言葉が上がった。



「丁度、俺も一度王都に出向かなきゃいけないんだ。それで、の用事が片付いたらシャーリィをエルグレアへ送るよ」
「…ま、そちらさんがいいなら良いんじゃね?どうよ、
「だな。じゃ、少しの間よろしくセネル。もう少し付き合ってね、シャーリィ」
「「ああ/はい」」