兎に角ジッとしているわけにもいかない二人は懸命に看病をすることにした。
熱が下がる様子は見受けられない、むしろ益々酷くなっていくようだ。
「もう温くなってる…」
額のタオルはすぐに温かくなってしまう。
洗面器の水も同じくだ。
「俺が取り替えてきてやるよ。後なんか飲み物があった方が良いよな」
「サンキュ。てか、スパーダも休みなよ。疲れてるんだし」
「ばーか、お互い様だろうが。でもま、そういうなら休ませて貰うけどよ。一時間経ったら起こせ、代わるぜ」
「了解」
会ってまだ間もないと言うのにスパーダはとても頼れる人物だと言う事が判った。
こういう時、そういう人がいると心強くなる。
タオルを取り替えて二十分、まだ熱が下がる様子は無い。
再び温くなったタオルをシャーリィの額からどける。
その時、熱はどれくらいかと手をあててみたらうっすらとシャーリィの瞳が開かれた。
「…あ……おにいちゃ………。…さん…?」
熱で意識が朦朧としている為かのことを誰かと見間違えたようだ。
だが違うと判ると小さくごめんなさい、と呟いた。
笑っていいよ、と言うと何やらシャーリィは気持ち良さそうに目を細める。
「…さんの…手……冷たくて…気持ち良い…」
「さっきまで水の中に入れてたからな。喉とか渇いてないか?」
「…大丈夫…。…あの……もうちょっと…こうしてて…もらってても……いい?」
上目遣いで申し訳無さそうに言う。
勿論断る理由も無いので、はそのまま手を当てておいた。
五分も経たない頃だろうか、穏やかな寝息が聞こえてきた。
お?と思い顔を覗きこんでみれば安らかな寝顔。
先程までの荒々しい呼吸も今は落ち着いている。
「…これなら大丈夫…かな…」
ホッとしたら眠気が襲ってきて、はそのままベッドに寄りかかる形で眠ってしまった。
スパーダが目覚めると、朝になっていた。
別部屋で眠っていたのだが、がこの部屋に入ってきた形跡が見受けられない。
と言う事は彼は一晩中一人で看病していたということになる。
急ぎ、シャーリィの使っている部屋へ走る。
まさか、嫌な予感だけは当たってくれるなよ、と祈りながら。
「っ!!シャーリィ!」
朝っぱらだと言うのに大声でドアを開けたスパーダ。
だが返事は無かった。
まさか!とベッドの方を見ると寄りかかって眠ると穏やかな寝顔のシャーリィ。
二人の手はそっと握られていた。
「……嘘だろ…。…熱、下がってら…」
一体何があったのかよく解らないが、一つ解るのはこれでもう大丈夫だと言う事。
スパーダはホッとした面、呑気に寝ているが少し憎たらしく思えて軽く蹴飛ばして起こした。
その反動で寄りかかっていた体がベッドから離れて、床に倒れてしまったが。
「いだっ…!あれ…朝か?」
「お〜は〜よ〜う?君。爽やかな朝だねえ」
「…おはよー…なんで怒ってんだ?」
「怒ってねえよ。それよか、何やってんだお前は。結局一人で看病してたのかよ」
その言葉にはシャーリィの方を振り返り、額に手を当てた。
あれだけ高かった熱はすっかり引いていた。
「…よかった…」
「たくよー…よくねえよ!一人で無茶しやがって!今度はおめーが倒れたらどうする気だったんだ!」
ビシっと指を向けられ、言葉が出なくなる。
羽交い絞めにされ、頭を拳で押さえつけられる。
「あだだだだ…ごめん…。でも心配、してくれたんだ」
「ああ?たりめーだろ?仲間なんだからよ」
「…!!……そだな!!」
その後目覚めたシャーリィも快調と言い、念の為もう一日この街に滞在してそれから出発を決めた。
病み上がりのシャーリィの負担にならないように朝食は部屋でとることにした。
スパーダにシャーリィを任せ、は三人分の朝食を取りに食堂へ向かう。
「…でもなんで治ったんだろう。たった一日で」
あれだけの高熱、一日で下がるなんておかしすぎる。
もしかしたらまたぶり返したりするんじゃないだろうかと不安になる。
「さんのマナのおかげですの!」
「わ!…吃驚した。…ってオレのマナ?」
いつの間に起きたのかミュウが後ろからついて来ていた。
はミュウの言葉を反復し、ようやく理解した。
そういえば、自分はマナの集合体なのだと。
「そうか…オレ自身がマナのようなものだから…。シャーリィに触れてたことでマナを与えられたんだな」
「そうですの!でもあんまりそういうことはしてはいけないですの〜…。さん自身が危険な目に遭ってしまうですの」
「危険な目…?」
確かに自分の生命エネルギーであるマナを他者に分け与えているわけだが、そこまで危惧することだろうか?
体力のようなものだし、眠れば回復すると思っていた。
「さんのマナは今一番貴重なものと言っても良いほどですの。だから与えるつもりでも逆に吸い取られてしまうかもしれないですの」
真剣に言うミュウにつられてごくりと唾を飲んだ。
要は乾いた大地にたった一滴の水を落とすようなものだ。
すぐに吸収され、蒸発してしまう。
「…じゃ、気をつけっか」
「みゅ〜」
が持ってきた朝食を食べながら、ふとスパーダが口を開いた。
「なあ、はエヴァに行くんだよな?」
「うん、そだけど」
「俺さ、考えたんだけどよ………やっぱ俺も一緒に行くわ!」
「「え?」」
とシャーリィは食事の手を止めてスパーダを見る。
ちゃっかりいつの間にか食事を終えていたスパーダはにかっと笑って二人を見る。
「大体このご時勢に二人だけで旅ってのが無理あるんだよな。この俺がついていけば安心ってもんだろ?」
自信満々に言い切るスパーダ。
呆気にとられる二人。
だが次第に笑みが零れた。
「…っはは…。じゃ、よろしくなスパーダ」
「よろしくお願いします」
「おうよ!任しとけ!」