二人での旅って気まずいとことかあるかなって思ってたけど、意外と上手くやってけるようだ。
多分シャーリィの性格上、合わせてくれてるんだろうけど無理があるようには見えなかった。

戦闘も後ろから魔術や回復魔法で支援してくれてるし、息の合ったコンビネーションをとれていると思う。







ただ、旅をして気付いたことと言えば…














「…シャーリィってパンが好きなの?」
「え?!さん嫌いだった?」
「ううん…好きな方だけど…」





交代でしている食事当番がシャーリィの担当の時、パン率が高い。
しかもバリエーションがすっごい広くて、飽きはこないんだけど…。






「これ…どうやって作るんだろう」


「みゅうぅぅ…不思議ですの〜」




オレの手にあるのはパンを鍋の形に見立てて、中にはたっぷりのスープと肉が。







“肉鍋パン”というらしい。

偶にシャーリィって、謎だ。


















山一つ超えるには少なくとも一日、だがそれも最短でだ。
モンスターだって出るし、道だって整備されているわけではない。
旅慣れしていない二人の足では三日はかかるだろう。



目の前にそびえる山。
だが、これを超えれば最初の目的地マールブレスに辿り着く。
道程はけして楽じゃないが兎に角二人は足を動かした。




登り続けて、早三時間が経った頃だろう。
太陽は真上に差し掛かり、正午を告げる。
丁度、開けた場所にも着いたことだし休憩をすることにした。





「川が無いか見てくる。ミュウ、シャーリィを頼むぞ」
「はいですの!」
「気をつけてくださいね」












川じゃなくても、湧き水でもあれば助かるのだが…と歩き回ってみればあまり離れていない場所に水の出ている所があった。
見たところ綺麗だし、味も問題ない。
は手持ちの水筒に汲めるだけ汲んでおいた。
そして、シャーリィ達の所へ戻ろうと踵を返した時何処からか呻き声が聞こえた。








「え?誰かいるのか?」



声をかけるが反応は無い。
どうやら相手の意識は朦朧としているらしい。



辺りを声を出しながら歩き回ってみる。

何度か返事代わりの呻き声が聞こえ、それが段々近づいている。
茂みを進んでいったその先に、その声の主はいた。






「ちょっ!?大丈夫か?」



声の主はと同い年位の青年。
ぐったりと岩に寄りかかり、目を閉じている。









意識があるか確認する為、少し揺さぶってみると彼の腹の虫が鳴いた。







「…腹…減った…」








どうやら先程の呻き声だと思ったものは腹の音だったようだ。

は仕方無い、と青年を背負いシャーリィ達の元へ戻った。























「!?ど、どうしたんですか、その人!」
「…行き倒れてた。なんか食わせてやって」





数分後


シャーリィが作ったパンはものの見事に青年の腹へと消えていった。
食事の匂いにつられて目を覚まし、それを与えるとその後の動きは物凄く素早かった。
瞬きしている間に食事を終えた青年は改めて口を開いた。



「サンキュっ!お陰で助かったぜ!道には迷うし食料も尽きるしで死ぬかと思った」
「そりゃあ良かった…。でもなんでまた一人で?」
「ちょっと家出中でさ。当ても無く歩いてたらこの様だ。あ、俺スパーダってんだ。よろしくな!」



互いに自己紹介を交わし、他愛も無い会話に花を咲かせる。
山を越えた先の町まで行くと告げるとスパーダはそこまで同行すると言った。
まあ、先程のようなことにまた成りかねないなと思いとシャーリィは了承した。















「エアスラスト!!」

「秋砂雨!!」

「虎牙連斬!!」





戦闘が始まると、スパーダの動きは目を瞠るものがあった。
魔術と剣術を使いこなし、素早い動きで敵を翻弄する。



「すっげー!スパーダ、魔剣士かー!」
「なんだよ、コレ位軽いもんだぜ」




キラキラした瞳のに褒められ満足気なスパーダ。
その後の戦闘も彼の活躍によって苦戦する事は無かった。


















中腹まで来れた所で日も暮れ始めたのでキャンプをすることにした一行。

歳も近いということもあり、すっかり意気投合した男子二人は剣術の話で盛り上がっている。
呆れたシャーリィは早々に眠りについてしまった。







「ところで、お前ら恋人同士とか?」
「ち、違うって!」
「じゃ、なんで二人で旅してんだ?」
「オレちょっと王都まで行かなきゃならなくてさ、彼女に付き合ってもらったんだ」
「!」




が答えた途端、スパーダは固まった。
そしてしばらく考えた後、凄い剣幕でに問うた。


「王都ってヴィノセか?!レディアか?!エヴァか?!」
「え?い、いや…エヴァだけど」



掴みかかってがくがく揺さぶりながら聞いてくるスパーダの表情は物凄く真剣だった。
戸惑いながらも答えを返すと、ぱっと手を離されは後ろに倒れた。



「なんだ、ならいいや」
「あたたた…なんなんだよいきなり」
「別にー♪」



上機嫌になったスパーダはテントに入って行った。
取り残されたはわけがわからず首を傾げていた。























翌日、今日こそは山を越えようと意気揚々三人は歩き出した。
戦闘も二人だった時と比べればスパーダが入った効果は大きい。
苦戦することもなく、無事山を越えることが出来た。





「いやったー!やっと山を越えたぜ!」
「後はこのまま真っ直ぐ行くだけだな…ってシャーリィ大丈夫か?」
「は…はい」



元気なとスパーダは兎も角シャーリィは少し肩で息をしている。
体力に男女差があるのだから無理も無い。
休憩をしようか、と聞いてみたがシャーリィは首を横に振る。
「もうすぐ日が落ちてしまいますから」と。



確かに今日は無理をしたのでもう夕方だ。
一応歩き出すが、辛くなったら言えよとは言った。



「はい」




気丈な笑顔で答えるシャーリィ。
とスパーダは何も言わず歩く速度を落とした。














ギリギリ日が落ちきる前に到着出来た一行。
最早シャーリィじゃなくても体力が限界だ。
体力消費を控える為ホーリーボトルを駆使してようやく辿り着いた。




「や…っと宿へ行けるな。わりぃが俺も正直限界だ……」
「確かに…。後ちょっとだ頑張ろう……シャー…リィ?」








振り返るとシャーリィがゆっくりと倒れていく。
我に返ったは彼女の頭が地面に着く前に手を添える。
顔を覗き込めばシャーリィは汗を掻き、苦しそうだった。


「シャーリィ?!おいシャーリィ!!」
「…すっげえ熱だ!何かの病気かもしんねえ!!、急いで宿へ行くぞ!」
「みゅっシャーリィさんしっかりしてですの〜〜〜!!」



自分達の疲れなども忘れて、全速力で宿へ走る二人。
は背中越しに辛そうな息遣いを感じていた。


















「…これは……まさか…いや…」



シャーリィを診断していた医者が言葉を止めた。

スパーダは早く言えと掴みかかる。




「お、ちつけスパーダ!せ、先生一体シャーリィの病状は?!」



はそんなスパーダを押さえ込みながら聞く。
医者は眉間を寄せ、考えてから口を開いた。





「君達は…もしかしてあの山を越えてきたのかね?」




あの山、と言うのは達が通った山。

その問いに首を縦に振ることで答えれば医者が「ああ…」と溜息を吐いた。





「あの山には特殊なモンスターが住んでいるんだ。自分の縄張りの周りに毒糸を張り巡らせる。そうして弱った獲物を喰らう」



だがその獲物と言うのは小動物位のものであって人間は対象外らしい。
本来なら痺れて神経が麻痺するのだが、人間にはその毒が弱すぎたお陰で発熱で済んだらしい。

恐らく歩いている途中でシャーリィは偶然糸に触れてしまったのだ。



「薬はねえのかよっ!」
「…正直言って、無いんだ」
「!!」




なんとも絶望的な返答。

医者は言葉を続ける。




「このまま体温が上がり続ければ彼女は死んでしまう」

「本当に手立ては無いのか!?このまま手を拱いて待ってろってのか!?」

「……方法は無い事も…ない」

「!!」




言葉とは裏腹に暗い顔をする医者。
だがその言葉で達の表情は晴れやかなものになった。





「毒そのものを入手してそこから血清を作る、もしくは……純度の高いマナを体内に入れる」

「…っ」

「純度の高いマナなら、体内に入れれば菌や毒を浄化出来る。しかしそれは無理な方法だ」


そう、この世界のマナは穢れている。
純度が高いマナなんてそう簡単に扱えるものではない。



「じゃあ…そのモンスターって奴から毒を取ってくれば良いんだろ?」
「駄目だ、スパーダ。アイツの周りには糸が廻らされてるんだろ?じゃあ近づけばオレ達もこうなる」
「そうだ。奴は警戒心が強いからなあ。動く獲物の前には姿を現さん」

「くそっ!」


スパーダは壁を殴った。
も床に座り込み頭を抱える。



「兎に角、今夜が峠だ…。彼女が毒に打ち勝つか…どうか。それに掛かっておる」




医者は何かあったら呼べ、と部屋を出て行った。


ちらりと視線をシャーリィに向ければとても辛そうな状態。
何も出来ないこの状況が歯がゆかった。






「くっそう!!八方塞がりかよ!」