「新しいクエスト?」
「そうだ」




クラースは手元の紙を卓上に広げた。









「…
エルグレアの街で二人のアドリビトムが行方不明」

「こっちは
オルコーナの村のアドリビトムが全員行方不明だ」

スラクタウンも同じみたいだね。これ、どういうことさ?」



「見ての通りだ。ここ数日街や村のアドリビトムが行方が知れない」



それも皆、クエストの最中にいなくなったという。
大抵三日以上かかるクエストもあるからあまりこんなに騒ぎになることは無いのだが、


彼らの共通点は皆寂びれた遺跡調査メンバーだと言う。


アドリビトム連合で連絡を取り合い、このことが判明したので捜索することにしたのだ。







「特に、エルグレアのアドリビトムはもういなくなって一週間が経つ。二人共女性なので安否が気がかりだ」

「で、僕らにどうしろって?まさかコレ全部捜しに行けって言うこと?」

「結論から言えばそうしてもらいたいが、それではウチのアドリビトムの人数が減ってしまう。それで…だ、
「へ?」






「君の未知なる力を見込んで頼む。今すぐエルグレアへ行ってもらいたい」






クラースの言葉にロイドは立ち上がりかけたが、シンクに止められた。


恐らくクラースはがディセンダーと知っているからこう言ったのだろう。
もしかしたら行方不明者もあのエルレインを同じ様なディセンダーに捕まっているかもしれないから。








「―――…わかった」




「…すまない。君にばかり苦労をかける形になるが…」
「何言ってんのさ、オレもアドリビトムなんだよ?クエストをするのは当然じゃん」







「ちょっと待った!!俺も行く!!だけじゃ危険じゃん!」





ロイドが押さえていたシンクを振り払い立ち上がった。



「…ロイド、気持ちは解るがお前にはここを守ってもらわなければならない。それに街までは迎えが来ている、心配は無い」





え?と全員がクラースを顧みる。





クラースがドアを開くとそこから二人の男女が入ってきた。












「彼らもエルグレアへ行く予定だったらしく、此処へ途中立ち寄ってもらったのだ」






「初めまして、私は王都に仕えるホーリークレスト軍第一小隊所属ティア・グランツと申します」


「第二小隊隊長、リオン・マグナスだ」



一人は長い髪をなびかせた真面目そうな女性。
一人は年頃はロイドやシンクと変わらない黒髪の少年。






「ティア殿、リオン殿。こっちがだ。腕前はまだ未熟だが、まだまだ発展途上だ。きっと足手まといにはならないと思う」


「…フン、どんな奴かと思えば。言っておくが、足手まといだと判断したら即置いていくぞ」
「リオン、そんな言い方しなくてもいいじゃない。…それでも別の街へ行く事は容易じゃないわ。覚悟はある?」



昨今はモンスターの増加、災害などにより他の街への行き来が随分厳しくなった。
通れるはずだった洞窟類が塞がったり、地形ががらっと変わった所為で其処の生態系が変わったりなど。

なのでアドリビトムでも限られた者達、それも数人編成でしか他の街には行けなくなった。













「勿論。覚悟はアドリビトムになった時からしてるよ」






それにオレはディセンダーだから






「足は引っ張らないようにする。意地でもついていくから」






これが、オレがオレである為の意味

















「…解ったわ、貴方がどれだけ本気か。それでは私達と一緒に行きましょう」
「よろしくね、ティア。それからリオン」



ティアは笑って握手をしたが、リオンはまたそっぽを向き一人部屋を出て行った。



「なんだよアイツ。滅茶苦茶愛想悪いな」
「本当だよ。こっちが下っ端だからって少し見下してるんじゃない?」
「ロイド、シンク落ち着けって。人間色々ってことじゃない?」



本人が一番怒っても良いのに…
とロイド達は思ったが、全く気にしていないようなので代わりに自分達が怒りを覚えてしまった。



、気をつけろよ。終わったら…帰ってくるんだろ?」
「アンタは此処のアドリビトムなんだからね。解ってる?」


は二人の言葉に嬉しくなり、「うん!」と大きく頷いた。







そして見送りを背に元気良く出発して行ったのである。


































「王都直属の軍が調査するほど、もう大事になってるのか?」
「いいえ、これは極秘で行われているの。だから軍所属の者でも今回の事を知ってるのはほんの一握りね」



前回の達のクエストの事があり、ようやく動くことになった王都直属軍“ホーリークレスト”。
彼らは元々軍で動いているのだが、軍人の中にはアドリビトムになった者もいる。
その場合は彼らが架け橋となり、軍とアドリビトムで協力することが出来るのだ。



ティアとリオンは小隊を一つ任される程の実力者。
故に今回の任務に当たっている。




と言ったかしら。…貴方の荷物動いているのだけど」
「え?…あー!!!」





の荷物袋がガサガサと動き出し、嫌な予感がしたが中を覗いてみると見覚えのある青い耳。
それを掴み、引っ張り出すと情けない鳴き声がした。




「みゅうう〜〜酷いですの。さんミュウを置いていくなんて酷いですの〜〜」
「何言ってんだよ!危ないからマリーさんに預けたんだろ?」
「ミュウはさんに付いて行くようマーテル様に言われてるですの!」



やはり、正体はこの喋るチーグル。
朝、マリーにわざわざ預かってもらったのにいつの間に荷物袋へ潜んでいた事だろう。
道理で重いと思った(←気づけよ)




「…ごめんティア…付いてきちゃっ……へ?」
……可愛い……


急に静かになってしまったティア。
怒っているのかと思い、謝ろうと振り返ると其処には顔を赤くし何やら固まっているティアの姿が。


先程まではクールで大人な女性だと思っていたのに、今の彼女は誰だ?




「あ、あの…ティア?もしもーし?」
可愛い…


の声に反応せず、目は常にミュウに見ている。


とは言え、此処で立ち止まったままだと本当にリオンに置いて行かれかねないのでミュウを持ったまま前に進む事にした。
案の定ティアはふらふらとついてきた。








「り、リオン…ティアが壊れた」
「彼女は普段は冷静な軍人だ。…だが、弱点がそれだ」


それ、と指したのはミュウ。


「え?チーグルが?」
「……小動物だけに限った事ではない」


小さいモノ、小物や人形、女の子らしいもの




「…それって可愛いものってことか…」
「一旦ああなるともう止められないぞ。お前が責任を持って連れて来い」
「ええ?!おいリオン!!」












いきなり前途多難です。