「…ん…」
「気がついたですの?」


目を開けると小さい生き物がいた。
辺りに人影は無い。

と、言う事はコイツが今オレに話しかけたということになる。





「ここは…?」

「ここは大樹ユグドラシルの森ですの。あなたは今ここで生まれたんですの!」


「生まれた…?」






青く耳の長い生き物はオレに腕輪を渡した。

七つの穴と、一つだけはめ込まれた透明な石の装飾。

それの内側に字が彫ってあった。




「…“”…?これが…オレの名前?」

「そうですの!古代の言葉で“夢”という意味ですの」
「へー…で、お前は?」
「ぼくはミュウですの!さんのサポートをするですの!」






ミュウはチーグルという生き物で、女神マーテルの遣いだそうだ。

話を聞くとオレは女神マーテルにより生み出されたらしい。









さんにはこの世界を救って欲しいですの!」


「…何から?」



「それはさん自身の目で見て欲しいですの。マーテル様はさんの意志に任せると言ってたですの」

「ふーん…そう、わかった」









何故こんなに物分りがいいかと言うと、疑問に思うほど考える事が無いからだ。







なんせ今のオレは生まれたばかり、つまりゼロの状態。
何が正しいかも間違っているかも判らないし、人に説明されても納得出来るわけ無いからだ。



どうせなら、この目で見てしまえばすぐ判る。






「ではまずここから出るですの。ここは聖域と呼ばれているから魔物は出ないけど一歩ここから出ると魔物が沢山いるですの」

「魔物…」

魔物なら、倒してしまっても良いんだろうか。







さん、ここからは聖域の外ですの。気をつけてくださいですの」





足を一歩踏み出しただけで分かる。



この空気の違い。











先程までは澄んだような清々しい心地よさだったのに今は重苦しいような熱気のこもった密林のよう。




「大丈夫ですの…?顔色が悪いですの」
「…まあ慣れるさ。きっと清浄な所で生まれたからだろ」



さんはマナの集合体ですの。純度が高いと不浄な空気に弱いですの」




「…マナ…?それはさっきの聖域とやらに満ちていた心地良い感じのことか?」



「そうですの!マナは全てのエネルギーの源、命の根源と言われてるですの」










マナが無ければ生命は生きられない。
だけど、生きる為にはマナを消費しなければならない。



そのマナを生み出しているのが大樹ユグドラシルなんだそうだ。







「大分落ち着いてきたな。どうやらこの空気にも慣れたみたいだ」


「よかったですの……あ!!」










ミュウが声を荒げた瞬間、目の前に現れた熊のような魔物。




「エッグベアですの!!」

「これが魔物…」





初めて見る魔物、オレにはそれが不純物の塊のように見えた。
マナとは逆の性質を持つ何かが固まって出来た生き物。

そんな印象を受けた。






さん!戦ってくださいですの!」

「戦うって…なあ」



「その腕輪に念じてくださいですの!」





「腕輪?」



右腕の腕輪には小さく光る透明な石が一つ。

ミュウの言うとおり念を送ってみると石が眩い光を放った。








「!!?」

あまりの眩しさにオレは目を閉じたが、ある異変に気づきすぐ目を開ける。


右手に、何かを握っている感触。









「これは……」
「それがさんの武器ですの!」





細身ではあるがしなやかな刀身。
握り手はまるで手の一部であるかのようにフィットしていて、正に自分の分身のようだ。






剣を手にした途端、体が勝手に動いていた。









「うおおおおお!魔神剣!!!」



















「…すげえ…」




目の前には倒れているエッグベア。


どうやら、オレが倒したようだ。




無我夢中で何がなんだかよく分からなかったが。








さんすごいですの!」
「うん、オレもそう思う」(笑)









「あ――!!俺の獲物―――!!」


いきなり背後から声がした。











「お前、見かけねえ顔だな。旅業か?」

いきなり現れたのはオレと同い年くらいの少年だった。
赤い服に逆立てた髪、腰には二刀となんとも目立つ風貌だ。




「えっと「そうですの!この先にあるイクセンの町に行くですの」…うん」


「イクセンは俺の町だけど、案内しよっか?」
「良いのか?助かる。オレは、こっちはミュウで…えっと…」








「俺はロイド・アーヴィング。よろしくな、













ロイドに案内され、辿り着いたイクセンの町。
とても穏やかな雰囲気の所だ。



「あんまり大きい町じゃねえけどさ、人同士が仲良くてすげえ良いとこなんだぜ」

「うん、分かる気がする。この町の空気がとても穏やかだ」


「そっか。そう言ってもらえると嬉しいな。よし!じゃあ俺が町の中隅々まで案内してやるからな!」
「ロイドさん頼りになるですの!」


ロイドの満面の笑みを見ると、本当にこの町が好きなんだなと思う。












ロイドに着いて行きながら町を見て廻る。


途中町の中心にある噴水広場で足を止めた。

















「少し休憩するか。まだまだ案内してないとこもあるけど」


「なあロイド、この町の人が武器を普通に持ち歩いてるのって当たり前なのか?」






先程からすれ違う人の中には腰から剣を提げている者や、杖を持っている者がいる。
いくら魔物が出るからとは言え、町中でも持ち歩かなければいけないのだろうか?








「ああ、それはアドリビトムだけだよ」


「アドリビトム…?」




「まあ要するにお助け屋?みたいなもんかな。依頼を受けたら出動するんだ」

「じゃあロイドもか?」
「ああ、一応な。そうだ!もやらないか?エッグベアを一撃で倒したんだから大丈夫だって!」








「なんか面白そうだな。どうやってなればいいんだ?」

「そうだな…ギルドに行って仕事を紹介してもらうんだけど、その前に入隊試験みたいなのを受けなきゃいけないんだ」
「へえー…ま、やってみるか」


「よし!そうと決まれば早速ギルドに行こうぜ!!」