「なあ、クレスあれ何だ?」












感謝の気持ちを貴
















町の子供達が淡いピンク色をした花を持って駆け回っているのを朝から何度も見かけた。
その時の子供達の表情と言ったら、とても照れくさそうだったりわくわくしていたり。


「ああ、今日は女性に感謝の気持ちを伝える日なんだよ。この日は自分で見つけたエレナの花を渡すんだ」
「エレナの花…?あの花の名前か?」
「うん。綺麗な水際にだけ生える花でねこの日にだけ咲くんだよ」



女性って言っても自分にとって一番身近で大切な人かな、とクレスは付け加える。
だから大概渡す相手は母親になる。けれど長年続いた文化は変化してゆき、今では親しい女性ならいいのだ。

兎に角、今日は女性にありがとうと伝える日。



















「それでカイルさん朝からいないんですね」
「確かルークも捜しに行ってたね」

アドリビトムである以上、決まった休みがあるわけではない。
けれど余程の用事や、急ぎの任務が無い限りは本人の自由だ。

だからこそ、今日は何人かがエレナの花を捜しに行ってしまったことで少々人手不足でもあったりするのだが。



は本日はジェイとマオとクエストに出かけていた。
女性に感謝を伝える日なので本日は女性のアドリビトムは皆休みというわけで男性のみのパーティ。
別段それは問題ないのだが、戦力的には回復役がいないのは辛い。

ちなみに今日クエストを一番こなしているのはこの三人だったりする。


「皆クエスト中にエレナの花捜してるからね〜。ボクらが一番働いてるよ〜」
「まったく…任務中に他に気を取られていて良いんですかね」



「二人は捜さないのか?花」




が問いかけるとマオはきょとんとした顔を返し、ジェイは溜息をついた。


「特にこれって相手がいるわけじゃないしねー。知ってる人皆に渡せるわけでもないし」
「どうせ皆さん何処かしらで貰うのに僕まで同じもの渡しても困るでしょう」


まあ、そういう考え方もあるかと納得していると目の前を巨大なモンスターが立ちふさがった。


「あ、いたいた。本日の獲物、トレント」
「トレントの枝五本持って帰るんだっけ?楽勝だね♪」
「じゃあ行きましょうか」



息の合ったチームワークであっさりとトレントを倒し、目的のトレントの枝を手に入れる。


さて、これで帰るだけだと踵を返そうとした瞬間、








!!」「さん!!」






トレントの根がの足を掴んで投げ飛ばした。



「うわあああああ!!!」


「あっち崖だよ!!」
「追いかけましょう!!」








空中に放り投げられた体は自由が利かず、は木々に引っ掛かりながら崖下へと落下していった。
しかしそれが幸いとして落ちる速度も大分弱まったことでダメージは少なかった。




ーーー!!大丈夫?」
「生きてますか?」



崖の下の方は少々霧が立ち込めていて見えにくく、二人は声が返ってこないことで不安に思った。
ジェイが崖下へ降りる手を考えていると、下からの絶叫が聞こえた。





「すっげーーー!!」





「どしたの?!
「何があったんですか?」



「二人共、早く早く!!下に降りてみろよ!!」


二人は訳がわからないまま、蔓を使って崖を降下することになった。








「…っわあ…すっごぉぉい!!」


マオは目の前の光景に歓喜の声を上げた。
崖下には澄んだ色をした湖があり、その周りは見渡す限りエレナの花が咲き乱れている。



「こんな場所があったなんて…僕の情報にもありませんでしたよ」
「な、すっげーだろ?!これだけあればさ、アドリビトムの女の人全員分あると思わねえ?」



確かにそれくらい余裕だろう。
アドリビトムにはかなりの数の女性がいるが、そんなのは問題ないくらいに咲いている。



「これなら誰に渡すか考えなくてもいいよなっ」



その先は言わなくてもジェイとマオには伝わったようだった。




















「あら…」



「まあ…」



「私にですか…?」



「ありがとう…」





達は分担してアドリビトムの女性にエレナの花を渡していった。
どっさりと花を抱えて帰ってきた三人に男性陣は驚いていた。


「ボク達の今日のクエストは“女の人にエレナの花を渡す”だからネー♪」


とマオが言ったのでそれに便乗しておいた。























はエレナの花を一輪持ってある場所に歩いていた。



そこはマナの満ち溢れた聖域、大樹ユグドラシルの森の一番奥。


そう、が生まれた場所。







「…貴方はオレにとって母のような存在だから。ありがとう……マーテル」




は一輪のエレナの花を大樹の根元にそっと置いて帰った。
そこに満ちるマナが優しく感じられたのは気のせいじゃないだろう。















『………エレナの花言葉は……“親愛なるあなたへ”…“ありがとう”……』





聞こえたのは風の囁きか、それとも神の呟きか。