町の外に人影が三つ。

クラース、ロニ、マリーの三名がまだ帰らぬ達を待っていた。






「クラースさん、マリーさん…もう日が落ちますし此処は俺が…」
「いや、待っていたいんだ。私達は」
「ああ。もうすぐ戻るさ。あの子達ならね」






辺りは町の灯以外に光は無い。
日が落ちれば魔物も凶暴化するし、危険なことこの上無いのだが…




今、安全な場所でゆったりと待つなんてこの三人には出来なかった。

だが信頼しているからこそ、この場を動かず待つのだ。








必ず、彼らは帰ってくると


















「…だからー大丈夫だって言ってるだろー」
「無理すんなって、もうフラフラじゃねえか」
「そういうロイドこそ剣を杖にしてその台詞よく言えるね」
「あはははーあたし達ボッロボロだね」
「ボクもへとへとですの〜」







遠くから声が五つ。


クラース達は誰からともなくいつの間にか走り出していた。









「あ、クラちんにマリりんとそれからロニぃ」

「今戻ったぜー」

ただいまー」

「どうしたのさ、三人共。町の外になんかいて」

「ただいまですの〜」




戻ってきた子供達は互いに支えあいながらようやく歩いてきたと言った感じだった。
こんな所を魔物に襲われでもしたらひとたまりも無いというのに、この呑気さ。





クラースはとりあえず怒鳴っておいた。




「ばっかもーん!!!!こっちは心配してたというのに、なんだその能天気さは!!!




「うお!!なんで怒られてんだ俺達?!」
「無事だったのに変な話だよね」

「お前らなあ…人がどんだけ…。ん?、お前どうしたんだ?歩けないほど酷いのか?」




実は先程からシンクに肩を借りている



神殿を出てから疲労の末、は歩くのもままならない状態だった。
それをシンク自らが背負うと言ったのだが、は互いにボロボロなのだからとそれを断った。
せめて肩を借りてようやく戻ったのだ。






「へー…シンクがねえ…」

「なんだよ、その眼は」




にまにまとロニはシンクの無表情顔を見つめた。
その視線が癇にさわったシンクは表情を歪めた。



「凄かったんだぜ、俺がに手伸ばそうとしたらいつの間にかシンクが
「ロイド?」……すいません」


妙に低いシンクの声にロイドの表情が一気に蒼褪めた。



「やっとシンクが認めてくれたんだ」
「ま、一応背中を任せてもいいとは思ったよ」


あまり他人に関わることをしないシンクが、自分からに関わっている事にロニだけでなくその場にいる全員が驚きを隠せなかった。
誰に対しても壁を作っているシンク。
はその壁を、自らの力で壊したのだ。





「皆、お疲れ様だな。うちの宿でゆっくり休むといい。温かいボルシチも出来ているよ」
「「「やったーーー!!!!」」」



















「そうか…神殿の石版を守る者…か」
「うん。シンクは男って言ってたけど、オレの目の前に現れたのは女の人だった」
「仲間がいるってことか…。そいつら一体何を…」



宿で一休みした後、クエストの報告をする達。
目的は石版を取って来ることだったが、それは叶わなかった。
けれど達が見たものは大きいだろう。





「謎の女………“エルレイン”か。…、本当に彼女は自分を“ディセンダー”と言ったのか?」
「うん」


肯定すれば、クラースの顔が曇った。


「クラースさん?」
「…ディセンダーは言い伝え上の存在だと思っていたが…まさか本当にいるとはな」



その言葉を聞いた時、何故かは自分も“ディセンダー”なのだと言う言葉を言えなかった。









自分は彼女と同等の存在。


ということは、クラース達とは違う存在。




が僅かに瞳の色を失ったことは誰も気がつかなかった。








ただ一人を除いては。


























コンコン



宿屋の二階奥の部屋、それはが借りている部屋。
其処ににノック音が響いた。






「はい?」
「わりぃな。寝てたか?」
「いや、ボーっとしてた」



ドアを開けてみれば、其処にいたのはロニだった。








「どうしたんだ?こんな晩くに」
「少し話でもしねえかなと思ってよ」


は部屋にロニを招き入れ、まあ座れと自分の隣を叩く。
ロニはそれを受け入れ、の隣に腰を降ろすと自分より下にあるの頭をくしゃりと撫でた。


「?」
「…お前さ、なんかへこんでたろ?」
「……」


が無言になったのを見て、ロニはそれを肯定と取った。
人の顔を見て、話をするが視線を全くロニに向けない。



「……俺な、弟みたいな奴がいるんだよ」
「みたいって…?」
「俺、孤児院で育ったからな。そいつとは血が繋がってねえんだが兄弟同然に育った」










は話の腰を折ることなく、ロニの話を聞いていた。

ロニの弟は同じアドリビトムをしていて、他の町にいるということ。
それがと同じくらいの年齢で、結構な寝ぼすけなのだということ。



「俺は孤児院を出たから此処にいるけど、たまには会いに行くんだぜ」
「…うん」
「そしたら、一気に溜め込んだことをぶちまけるんだ。嬉しかった事や悲しかった事、可笑しかった事」



だから離れてても、全然寂しくない。
次に会う時に何を話そうかと考える楽しみが出来る。


黙って話を聞いているの頭をロニはそっと引き寄せた。





「だからお前も溜まってる事はぶちまけろ。オニーサンが受け止めてやるからよ。家族だろ?アドリビトムは」










その言葉に、が口を開いた。






「……オレさ、ホントは旅業なんかしたことないんだ。生まれたのはほんの数日前」


ロニの手がピクっと反応したが、はそのまま話を続けた。
静かな部屋に聞こえるのはの声と穏やかなミュウの寝息だけ。




「女神マーテルがオレを創ったんだって。…そんでエルレインって奴が言ったんだ。“貴方と私は同類”って」

それはつまりもディセンダーだと言う事。
そしてディセンダーとはマナによって創られた生命体ということ。







「オレまだあんまり知識無いから…それがどーいうことかわかんない。悪いのか良いのか。でも、オレは皆と違うって考えたら……なんか此処が痛くなった」


そっと自分の胸の辺りを擦る

その声は悲しんでいる、というよりも本当にわからない様子で無機質に淡々と語っていた。





「バーカ。皆違って当然だろ」
「…?」
「お前はだし、俺はロニだ。ロイドはロイドでシンクはシンク。そうだろ?」
「う、うん」







「生まれ方なんざどーでも良いんだよ。要はそいつが誰かってことだ」










ロニの言葉の意味がよくわからなかった。


でも、一つだけわかったのは




オレはオレだってこと。














「オレは…オレは!そうだよな、ロニ!」
「当たり前じゃねえか。ったく…そんなことをぐちぐち考えてたのかよ」
「何すんだよ、髪グシャグシャになるって!!」




何も考えずに心から笑えた。






















「…で、シンクとクラースさん何やってんの?」


ドアの外でがたりと音がした。

数秒反応が無かったが、静かにドアが開き其処には名前を呼んだ二人。




「…いや、盗み聞きするつもりは無かったんだが…」
「たまたま通りかかったら聞こえてね…。ま、でもこれで納得出来たよ。アンタが敵じゃないってことが」


「え?」


シンクは達に背中を向けた。



「あの女は自分とアンタは違うって言ったんだろ?アイツは敵。じゃあアンタは違うってことじゃないか」




それだけ言うと部屋を出て行った。



「…本当には凄い奴だな」
「え?ええ?」
「自分で解ってねえんだから、ほんと大した奴だよ」





二人がクスクス笑っているものだから、よくわからないけどとりあえずは笑っておいた。