金髪の男とが交わしていた会話に口を挟んだのは、なんとリアラだった。
意外な人物が会話に参加したことには驚きを隠せない。

だがやがて一つの推測に辿り着く。





「…まさか、リアラ…。君も…」





「……ええ。私も、“ディセンダー”…。元、だけどね。それにしても久しぶりね…ダオス」






リアラは男に向かって“ダオス”と呼んだ。

ダオスもリアラを見て動じないことから知り合いなのが伺える。
そう言えばリアラはこの部屋に入っても、具合を悪くしていない。



それは自分と同じ存在だと言う何よりの証拠になる。




しかし、「元」とはどういうことだ?

は思わず目の前のダオスから目を離し、リアラの方へ振り向いてしまった。





「リアラ、元って…なんだ?!もう君はディセンダーじゃないって言うのか?」


「ディセンダーは世界を守る存在…。故に世界が滅んでしまえばディセンダーは必要ないの」




「世界が…滅ぶ…?」










「この娘もまた、我らの同胞。だがお前と同じく我らに賛同しなかった。故に世界は滅んだのだ」


「違うわ!!貴方達が滅ぼしたんじゃない!!それにまだ私は諦めていないわ!!必ず元に戻してみせる!!」
「出来るものならな」



会話についていけなくなってしまったを置いて、ダオスとリアラは言い争う。
の頭の中には何度も同じ言葉がリフレインしていた。










“世界が滅べば、ディセンダーは必要なくなる”

“リアラの世界は滅んだ”

“滅ぼしたのはダオス達”








「…させない…」


「ん?」




背負っていたコレットをそっと床に寝かし、上着をかける。
そしてゆっくりと剣を抜き、それをダオスに向けた。




「この世界を…こんなに暖かい世界を滅ぼすなんて絶対にさせねえ!!その為にも…
お前らを倒す!!

「愚かな同胞よ。その言葉後悔する日が必ず来ようぞ」






ダオスの掌に光が収束する。
前にも見た光景だ、エルレインと対峙した時に。

呪文の詠唱が始まる。





「レイ」
「粋護陣!!…閃空裂破!!」


ガードし、詠唱後の隙を狙って斬りかかる。
確かな手ごたえを感じた。



「やったか…!!」



!だめ、逃げて!!」







リアラから飛んできた警告。














「…っな…」





「…こんなもので私は傷付かぬ…」














確かにこの手で斬った感覚があったのに、





ダオスの体には傷一つ付いてない。













彼はの剣を掴み、思い切りごと投げ飛ばした。
背中を壁に打ち付けられ、肺に思い切り衝撃が来た。




「…ぐっ…!!
!!待って今回復を…
きゃあ!!


リアラも詠唱をする隙にダオスの魔法を喰らってしまう。




「こんなものか…それでよく我らを倒すと言えたものだ」





『剣で傷付かないなんて…それなら…どうすれば…』







「お別れだ」










ダオスの手に再び光が収束する。
しかも今度は先程より力が強い。


無駄かもしれないが剣を構え、来るであろう衝撃に身を堅くする。









「死ね……グランド
「デモンズランス!!!」










ダオスの頭上から黒い槍が降り注いだ。
術の詠唱中だった為対応が遅れ、ガードできなかった。





「…これは…」



「何を愚図愚図している!!今だ!」

「…サンキュ!」





肩で息をしながら入り口に立つリオンの姿があった。



リオンの晶術を喰らったダオスは体制をふらつかせる。
そこを狙って、リアラは再び詠唱を始める。
は立ち上がり、リアラの援護に回った。




「…っぐう…おのれ…まだ邪魔者がいたか…。我らの崇高なる目的の邪魔はさせん」
「させるか!!散沙雨!!」
「私に剣は効かぬと言ったはず…」


は不敵な笑みを浮かべた。






「恐怖と共に消えよ!鳴け!極限の嵐!フィアフルストーム!!」





リアラの詠唱が終わったのだ。

巨大な竜巻がダオスに襲い掛かる。



「…こ、のままではいかん…!…今日のところは退いておこう」
「待て!!」



よろめきながら立ち去ろうとするダオスに手を伸ばそうとするが、寸での所で消えてしまう。
だが足元に何かが落ちていた。



「これは……!風花の神殿にあった石版と似てる…」



それはマナの結晶とも呼ばれる石版。
はそれを持って帰ることにした。











「リオン!ありがとう、助けに来てくれて…っリオン!」


礼を言おうとリオンのいる方を見れば、そこにはぐったりと倒れているリオン。
そうだ、此処はディセンダー以外は入れない場所だったとは急いで皆を連れて出る。



外に出た後、リアラの回復呪文をかけたがコレットとフィリアはあの中にいる時間が長すぎた所為かまだ目を覚まさなかった。
連れて帰ろうにも、リオンやティアもそこまで回復していない為運び手がしかいない。
が男と言えど二人も担げるわけが無く、ティアとリアラが先に町に戻り応援を呼びに行く事になりその間野宿と言う形になった。







テントの中でコレットとフィリアを寝かせ、外で見張り番をする。
するともう一つのテントが開き、中からリオンが出てきた。




「寝てて良いのに」

リオンはの正面に座る。

「フン、僕だって軍人だ。素人のお前に見張り番を任せるのも不安だ」
「ひでー。あ、そういえばリオンなんであの時リアラと別で来たんだ?」
「地下へ降りようとしたらアイツが勝手に先に飛び出したんだ」
「あらま、おいてけぼりか」
「違う!」



軽く笑い、息を吐く。
はリオンの顔が見られなかった。


色々ごちゃごちゃしすぎて整理しきれない。
“ディセンダー”と言う言葉が重く圧し掛かる。


しかもリアラの世界を滅ぼしたのも、自分と同じ“ディセンダー”と言う存在。
それ故に怖かった。



“ディセンダー”である自分とは、《共に生きることは出来ない》と彼らに認識されるのが。







「…お前が何を考えてるかは大体予想がつく」
「…!」
「だが、僕には関係ない。今回の任務は“行方不明だった二人を連れて帰ること”だ。それはもう果たした」


リオンの言ってる意味が解らず、は首を傾げる。



「前衛を戦う者同士として邪魔にはならなかった。それで十分だ」
「…っ…リオン…」




彼なりの言葉。

ここ数日《リオン》という人間と接していて、彼が気遣いを他人にするような性格じゃないということは気付いていた。
そんな彼が自分にわざわざ言葉を選んでくれた。
それが何より嬉しかった。




「…リオーン!!
「な、なんだ!!こら抱きつくな!!」
「嬉しいんだよ!!チクショー!!」




言葉ではなんと言っても、引き剥がそうとしなかったのは彼なりの優しさだ。

























翌朝、ティア達によって連れてきてもらったエルグレアの自治団の人にフィリア達を運ぶのを手伝ってもらい達は街に戻った。
宿で疲れをとってくれというイオンの厚意もあり、一晩泊まった後再び教会へと赴いた。





「みなさん…この度は本当にご迷惑をおかけいたしました。改めまして、私フィリア・フィリスと申します」

「助けて頂いてありがとうございます!コレット・ブルーネルです!」




元気を取り戻し、笑顔で礼を言う二人。
ミントも二人が戻ってきた事が嬉しそうでとても晴れやかな笑顔を浮かべていた。

そんな中、イオンが三人に質問する。



「ところで、お三人のこれからのご予定は?」




「僕達は一旦王都へ戻る。今回の事を報告し、今後を考えなければならない」
「そうね、少し調べたい事も色々あるし…。はどうするの?」
「いや、オレはとくに考えてない。何も無いなら戻ろうかなって」
「なら…」



「でしたら、は少しこの街に滞在していただけませんか?」
「え?」


思いもがけない提案に本人ではなくリオンとティアが目を見開く。
特にリオンに至っては「なら王都までついてこないか?」と言おうとしたところだった。

口では言わないが、リオンはの事をそれ程疎ましく思っていない。むしろ“一緒にいてもいい”の部類だ。







「前も言いましたが、この街のアドリビトムはサポートが主で他所のアドリビトムと合流するまでクエストも行えません。
 ですが、が居てくだされば…」


此処最近クエストが溜まってしまってるんです、とイオンは付け加える。
それを聞いて断るではない。

ああ、いいよとすんなり返事を返してしまったのだ。


















その後、旅立つリオンとティアを見送りには街の入り口までついていった。

「…お別れね。寂しくなるけれど、また会えるわよね?」
「勿論。オレは世界を見て回りたいんだ。何処かで絶対会えるよ」

ティアと握手をし、再会の約束をする。
リオンにも挨拶をしようと右手を出せば何かを渡された。


「何コレ?」
「…ホーリークレスト軍に関わることがあればコレを見せろ。きっと役立つはずだ」


渡されたのはエンブレム。
リオンの襟元につけられていた物だ。



「リオン…。わかった、ありがとう」
「それは紹介状にもなるわ。それにそれを使えば持主に連絡が行くようになってるから」


私のも渡しておくわね、とティアからも受け取る。

見れば形が違う。一人一人違うのだろう、区別がつきやすい。



「ありがとう。二人に出会えてよかった。また会えるだろうからさよならは言わないよ」
「そう言って何処かでドジって死ぬんじゃないぞ」
「リオン!…もう…。じゃあね、。それからミュウ」
「さよならですの〜〜!!」
ティアは最後まで名残惜しそうにミュウを見ていた。



「…また会おう、



最後に初めて、リオンがの名を呼んだ。
彼がのことを認めた証だ。



「またな!!リオン、ティア!!」





























〜おまけ〜



二人でエルグレアに向かう途中のリアラとティア。
その時の二人の会話。









「ねえ…リアラはが好きなの?」
「いきなりどうしたの?!ティア」
「だって初めて会ったって言うのに結構信用しているようだったから…」



そう言いながら視線をウロウロさせるティア。
こんな話をすることは慣れていないのだろう、聞き方が不自然じゃないかと不安になるのだ。



「す、
好きって…わ、私…えっと…」



顔を赤く染めて恥らう反応は好きというそれだ。
可愛らしいと思いながら、ティアは質問を変える。


「聞き方を変えるわ。のこと会ったばかりなのにどうしてあんなに信用できたの?」
「う〜ん…なんて言うか、惹かれたの。彼なら安心できるって」


(同じ“存在”だからかしら)



これは声に出さなかった。
きっとリアラがディセンダーだから、がディセンダーであることも気付けたのだろう。
今回の任務にダオス達が関わっている気がして同行させてくれと頼んで正解だった。

お陰でという人物にも会えたのだから。




「そう…ね。確かには凄いわ。私も時々驚かされたもの」
「…?ティアの方こそ、のこと気にしてない?」
「!!し、してないわ!ちょっと弟みたいで可愛いなって思っただけで…」
「あやしい〜〜。私達ライバルね!」
「ちょっちょっと待って…だから違うのよ〜〜」




これは女の子だけの秘密の会話。