「…あれが、エルグレア?」
其処は大きな教会が聳え立つ街だった。
街の真ん中に大きな鐘のある聖堂。
イクセンの町とはまた違った雰囲気を持つ所だった。
「まずはここのギルドへ行きましょう。そこでリーダーから詳しい話を聞かなきゃね」
「わかった。じゃあ…あれ?リオン何処行った?」
いつの間にかリオンの姿が見当たらない。
さっきまで傍にいたのに…と辺りを見渡すと、少し離れた所にリオンは立っていた。
「おーいリオーン!行かないのー?」
「!!す、すぐ行く」
「何見て……あ、アイスキャンデー屋さんだ」
リオンの数歩先にあったのはアイスキャンデーの屋台。
が近づいてくるのを察したリオンはすぐさまそこから離れる。
「情報収集をしていただけだ。別に食べたいわけじゃ…」
「ねえねえティアー、リオンー!何味が良い――?」
いつのまにやら屋台の前で手を振っている。
ティアとリオンからの返事が無いので適当に「お薦めください」と言っている。
「はい」
二人の前にずいっと出された鮮やかなピンク色や黄緑色や紫色のアイスキャンデー。
「なんかお薦めは?って聞いたらさくらんぼとマスカットとグレープなんだって。どれがいい?」
「じゃ…私はグレープ貰うわ。ありがとう、」
「フ、フン。別に欲しくないが、溶かすのも勿体無いからな。僕は残ったので良い」
「じゃ、こっちあげる!」
がリオンに渡したのはさくらんぼ味。
ティアは「え!?」みたいな顔をしてそれを見ていたが、なんと驚くことはリオンが一瞬目を輝かせたことだ。
勿論すぐいつもの仏頂面に戻ったが。
ティアはアイスに夢中になってるリオンから離れてに耳打ちした。
「ねえ…どうしてリオンにさくらんぼを渡したの?リオンならマスカットの方が好きだと思ったけれど…」
「さっきオレが三本出した時、リオンの視線がずっとさくらんぼに向いてたんだ。
もしかしてコレが良かったのかなーと思って渡してみた」
ティアは驚きを隠せなかった。
軍人である自分達は色々な訓練を受けているからこそ、相手の目を見て気持ちを読み取ったりする。
しかしそれをがさらりとやってのけたことが信じられなかった。
『…って一体…』
「おいしーな、リオン」
「ふん…まあ不味くは無いな」
ギルド―――エルグレア支部
「ここね、表向きは教会みたいだけど…」
「入るぞ」
確かに見た目は大聖堂。
けれど、街の住人の言葉じゃ依頼は全て此処へ通すことになってると言う。
「当教会へようこそ。私は司祭のミント・アドネードと申します。お待ち申しあげておりました、アドリビトムの方々」
出迎えてくれた女性は柔らかな物腰で丁寧に挨拶をしてくれた。
達を聖堂の奥の部屋に通し、「ギルドの方を呼んで参ります」と出て行った。
数分もせず戻ってきたミントの後ろには緑色の頭が見えた、しかも二つ。
「初めまして、僕が一応アドリビトムの責任者をやらせて頂いてます。イオンと言います」
「ぼく、フローリアン!」
現れたのはそっくりな二人の少年だった。
「お前がリーダーなのか?」
リオンの目は“嘘だろう?”と物語っている気がした。
確かにイオンと名乗った少年は線も細く、年も若い。
イクセンの町のリーダークラースとは全くかけ離れている。
「とは言ってもエルグレアのアドリビトムは他の町のサポートを主とします。ですからリーダーを特定する必要はありません。
しかし一応形式上誰かがとらねばならないので、若輩者ですが僕が務めております」
イオンの言葉は見た目の若さとは違って、しっかりしていた。
責任感を抱いている、そう感じるのは充分だった。
「オレ、っていいます。よろしく、イオンさん」
「どうぞ呼び捨てで構いません。同じ年くらいでしょう?僕もと呼ばせてくださいね」
「フローリアンも!!」
「…ところでイクセンのシンクって知ってる?イオン達にそっくりなんだけど」
「ええ、彼と僕ら兄弟なんです。順番としては僕が一番上で、二番目が彼で、フローリアンが三番目です」
世間は狭い。
打ち解けてきた所で、今回の重要なところ。
行方不明になった二人の女性の捜索だ。
「いなくなったのはフィリア・フィリスとコレット・ブルーネル。どちらも我が教会の修道女です」
ミントが二人の写真を取り出す。
ニコニコと笑顔を絶やさない金髪の女の子と、眼鏡をかけた知的美人な女の子。
「何故、二人だけ行方不明なんだ?二人だけでクエストに行ったのか?」
「無謀だな。サポート役を担っているアドリビトムが単身でクエストに行く?そこがまずおかしいだろう」
リオンの言う事は正論だ。
前衛も連れず、後方支援のアドリビトムが危険な遺跡探索に出かけるなんて。
「…最初は此処で他の街の方と合流する予定でした。
けれど、その方々がいつになっても来られずやむを得なかったのです。
コレットさんはうちでは数少ない前衛タイプなのですが…」
ミントの顔が曇る。
無謀なことをしたというのは自分でも解ってるのだろう。
けれど、彼女達もじっとはしていられなかったのだ。
他所で色々事件が起こっていると言うのに指をくわえて見てるなんて。
「過ぎたことを言ってても仕方無いじゃん。それより早く二人を助けに行こうぜ」
は素早く立ち上がり、切り出した。
その一言にミントの顔色は少し晴れやかになった。
「の言うとおりね。それではミント、何か遺跡についての情報はあるかしら」
「はい…。遺跡の名は“花柳の神殿”。中は水系の魔物が多いと聞きます。それから…これを持って行ってください」
ミントは大きな袋と一冊のノートを渡した。
「“ロールキャベツ”のレシピと食材を幾つか入れておきました」
「ありがとう、絶対二人を連れて帰るからね」
「それと…エルグレアのアドリビトム代表として一人連れて行ってほしい方がいるのです」
ミントがそう言うと扉が開き、一人の少女が入ってきた。
「初めまして、リアラと言います。よろしくお願いします」